口唇裂・口蓋裂の関連図をイラストで解説|哺乳障害・体重増加不良はなぜ起こる?
看護学生のみなさんにお知らせです!
このたび、「らくらく関連図」アプリに口唇裂・口蓋裂の関連図を追加しました。
口唇裂・口蓋裂は、日本人では約500人に1人の赤ちゃんに見られます。顔にあらわれる先天異常のなかで、もっとも頻度の高いもののひとつです。
この関連図を開くとき、まず知っておいてほしいことがあります。「裂けた」のではありません。「閉じきらなかった」のです。くちびるも上あごも、もともとは左右に分かれた状態から出発して、あとからくっついてできあがります。そのくっつく途中で止まったのが、口唇裂・口蓋裂です。
「閉じきらなかった。だから、つながっている」という視点で読んでみてください。
口唇裂・口蓋裂とはどんな病気?

口唇裂・口蓋裂は、くちびるや上あごが、生まれつき閉じきっていない状態です。
頻度は日本人では約500人の出産に1人(400〜600人に1人という報告もあります)。内訳は、片側性の唇顎口蓋裂 40%/口蓋裂 30%/両側性の唇顎口蓋裂 10%/口唇裂 10%/その他 10%です。そして——原因が不明なものが大多数を占め、7割に達しています。このあと原因のセクションで3つの入口を見ていきますが、説明がつくのは残りの一部だけだということを、先に知っておいてください。
名前の整理もしておきます。実習記録でつまずきやすいところです。口唇裂はくちびるが閉じきっていない状態(関連図では「口唇の連続性途絶」)、口蓋裂は上あご(口蓋)が閉じきっていない状態、顎裂は歯ぐきの土台(歯槽部)が閉じきっていない状態。この3つが重なったものが唇顎口蓋裂で、口蓋ののどに近い柔らかい部分だけが閉じきっていないものを軟口蓋裂と呼びます。
見落とされやすい型もあります。粘膜下口蓋裂は、表面の粘膜で裂が覆われているため、見ただけでは分かりにくく、発音の問題などから成長したあとで見つかる場合があります。「見た目に何もない=口蓋裂がない」とは言えません。なお、口唇裂・口唇口蓋裂は男児に、口蓋裂だけの場合は女児に多い傾向があります。
どこが閉じきらなかったかで、あとに出てくる症状が変わります。くちびるだけなら見た目と哺乳。口蓋まで及ぶと、鼻とのつながり・耳・ことば・歯並びまで広がります。
裂けたのではなく、閉じきらなかった

ここが、この疾患を理解するうえでいちばん大事なところです。わたしたちの顔は、はじめから一枚の板としてできるわけではありません。
くちびるは妊娠5〜8週ごろ、上あごの奥(軟口蓋)は妊娠7〜12週ごろにできあがります。左右や前後から伸びてきた「突起」が、正中で出会って癒合する——この数週間に癒合が完了しなければ、そのまま連続性が途切れた状態で生まれてきます。
多くのお母さんが妊娠に気づくころには、もう大事な時期が過ぎています。この事実は、あとでご家族への向き合い方を考えるときに、もう一度出てきます。
では、関連図の中心を通る道を見てみましょう。発生関連遺伝子の発現異常・細胞障害 → 顔面形成細胞の増殖、遊走、分化の障害 → 顔面突起、口蓋突起の成長や癒合の障害 → 上唇または口蓋の連続性形成不全 → 口唇裂・口蓋裂・顎裂・唇顎口蓋裂・軟口蓋裂。
たった5段です。関連図の上のほうに並んでいる入口は、全部この道に合流します。遺伝子の変化も、母体の糖尿病も、肥満も、喫煙も、飲酒も、薬も——行き着く先は同じ「癒合の障害」です。
では、「閉じきらなかった」だけで、なぜここまで広がるのか。くちびるが閉じないと口輪筋という輪っか状の筋肉がつながらず、引っぱる方向が偏って見た目の変形になります。口蓋が閉じないと口と鼻がつながったままになり、吸っても圧がかからず哺乳がうまくいきません。さらに口蓋の筋肉(口蓋帆張筋)は耳管を開く筋肉でもあるので、中耳の換気ができなくなります。そして飲めなければ体重が増えず、上あごが閉じないと歯並びと顎の成長に影響します。
ひとつの「閉じきらなかった」が、口・鼻・耳・ことば・歯・体重にまで広がっていく。だからこの疾患は、ひとりの医師では診きれません。多くの職種が、長い時間をかけて関わります。
口唇裂・口蓋裂の原因の関連図

原因のセクションに入る前に、いちばん大事なことを先に書いておきます。
日本口腔外科学会は「原因は不明なものが大多数を占め、7割に達しています」としています。岡山大学病院 口唇裂・口蓋裂総合治療センターも「いろいろな原因があるといわれておりますが、いまだはっきりとした原因はわかっていません」「人での発生要因として確認されたものは、ほとんどありません」と書いています。
これから見る3つは、「これが原因だ」と確定したものではありません。発生のしくみを説明しようとして研究されている道すじです。ご家族に「どうしてですか」と聞かれたとき、原因を断定しないこと。そして、ご家族の行いのせいだという言い方は、絶対にしないこと。
くちびるや上あごができるのは妊娠5〜12週ごろでした。多くの方が妊娠に気づくのは、その時期と前後しています。気づいたときには、もう終わっている。これは、誰にもどうにもできないことです。
そのうえで、関連図に描かれている3つの入口を見ていきます。遺伝子・染色体異常は設計図そのものの変化、母体の糖尿病・肥満は胚のまわりの環境の変化、母体の喫煙は届く酸素の変化。3つとも「顔面形成細胞の増殖・遊走・分化の障害」に合流します。
原因① 遺伝子・染色体異常

1つめは、設計図そのものにかかわる入口です。関連図では、ここに2本の道が描かれています。
遺伝子からの道は、口唇・口蓋形成に関わる遺伝子の病的変化 → 発生を調節するたんぱく質の機能・発現異常 → 発生関連遺伝子の量・発現の異常へ。
染色体からの道は、染色体の数的異常・構造異常 → 口唇・口蓋形成関連遺伝子の欠失、重複など → 発生関連遺伝子の量・発現の異常へ。
2本の道は、「発生関連遺伝子の量・発現の異常」で1本になります。違いは入り方です。遺伝子そのものが変わるのか、染色体ごと過不足が起こって結果的に遺伝子が増減するのか。
ここで「遊走」という言葉に注目してください。増殖は細胞が数を増やすこと、遊走は細胞が決められた場所まで移動すること、分化は細胞が役割をもった形に変わることです。顔をつくるのは、細胞が「決まった場所まで歩いていく」作業です。数が足りない・たどり着けない・役割を持てない。どれが欠けても、突起は出会えません。
⚠️ なお、「遺伝子がかかわる」ことと「親から確実に遺伝する」ことは同じではありません。多くは、はっきりした家族歴のないところに起こります。ここを混同しないでください。
原因② 母体の影響(糖尿病・肥満)

2つめは、胚のまわりの環境にかかわる入口です。糖尿病と肥満は、別々の道から入って、途中で合流します。
糖尿病からは、妊娠初期の高血糖持続 → 胚への過剰なブドウ糖供給 → 胚細胞の糖代謝異常 → 活性酸素増加、酸化ストレス亢進へ。
肥満からは、インスリン抵抗性・慢性炎症 → 高血糖、脂質代謝異常を伴う場合 → 妊娠初期の胚の発育環境が変化 → 活性酸素増加、酸化ストレス亢進へ。
合流点は「活性酸素増加、酸化ストレス亢進」です。酸化ストレスというのは、細胞がさびていくような負担のこと。細胞が本来の仕事をしにくくなります。
ここで、関連図をよく見てください。肥満の道の3段目には「高血糖、脂質代謝異常を伴う場合」という条件が書き込まれています。つまり肥満そのものが直接つながっているわけではなく、代謝の変化を伴うときに、この道が動くということです。「太っているから起こる」ではありません。関連図も、そうは描いていません。
そして、いちばん気をつけてほしいことを書いておきます。この道が描かれているからといって、「お母さんのせい」ではありません。糖尿病も肥満も、本人の努力だけで決まるものではありません。体質も、生活の事情も、経済的な状況も関わります。そして何より——原因が不明なものが7割でした。この記事は「なぜ起こるか」を説明するものであって、「誰のせいか」を探すものではありません。
原因③ 母体の影響(喫煙)

3つめは、胚に届く酸素にかかわる入口です。
妊娠初期の喫煙によるニコチンの曝露 → 血管収縮、酸素運搬の阻害 → 胚への酸素供給低下 → 低酸素、酸化ストレスの関与 → 顔面形成細胞の増殖、生存への悪影響。
道すじは、ほかの2つよりもまっすぐです。ニコチンは血管を縮めます。血管が縮めば血が流れにくくなり、その先に届く酸素が減ります。
そして、いちばん下の段を見てください。「増殖」だけでなく「生存」と書かれています。酸素が足りないと、細胞は増えられないだけでなく、生きていられなくなります。これは、ほかの2つの入口にはなかった言葉です。
看護としては、くちびると上あごができるのは妊娠5〜12週ごろなので、禁煙の話をするなら、妊娠がわかる前から意味があります。本人が吸っていなくても、まわりの煙にさらされる環境は同じ経路に関わります。ただし——すでに生まれたあとなら、過去を問う場面ではありません。「あのとき吸っていたから」と言わない・言わせない。次の妊娠を考えている方に禁煙の支援を届けることは、責めることとは違います。
なお、関連図にはもう1本、妊娠初期の一部の抗てんかん薬の使用から入る道も描かれています。⚠️ ただし、必要があって処方されている薬を自己判断でやめることのほうが危険です。妊娠を考えるときは、必ず主治医に相談する——そこまでがセットです。
口唇裂・口蓋裂の症状の関連図

ここからは、「閉じきらなかった」あとに何が起こるかを見ていきます。哺乳障害は口蓋が閉じないから(口と鼻がつながっていて、吸っても圧がかからない)、口唇の裂け目・口唇や鼻の変形はくちびるが閉じないから(筋肉が輪にならず、引っぱる方向が偏る)、そして体重増加不良は哺乳障害の結果です。哺乳障害 → 体重増加不良は、そのままつながっています。
症状① 哺乳障害

生まれてすぐに、いちばん最初にぶつかる問題です。
口蓋の裂隙形成で口腔・鼻腔が交通 → 口腔内の密閉不全で口腔・鼻腔から空気流入 → 口腔内陰圧維持困難 → 乳汁吸引効率低下 → 易疲労、哺乳時間延長 → 哺乳障害。
読みどころは「口腔内陰圧維持困難」です。赤ちゃんがおっぱいやほ乳びんを飲むとき、口の中を真空にして吸い出しています。ストローと同じしくみです。ストローに穴があいていたら、いくら吸っても飲めません。口蓋が閉じていないと、吸うたびに鼻から空気が入ってくるので、真空になりません。
関連図には、くちびる側からの道も描かれています。乳頭の密閉不良(くちびるで乳首をくわえきれない)→ 口唇・乳頭間の間隙形成 → 吸啜時の空気流入 → 口腔内陰圧維持困難。口蓋側からの道と、ここで1つになります。くちびるでも上あごでも、行き着く先は同じ「圧がかからない」です。
もうひとつ、関連図が描いているのが「乳汁の鼻腔流入」です。飲んだミルクが鼻のほうへ流れてしまい、むせたり、鼻から出てきたりします。ご家族がいちばん驚く場面でもあります。
実習で見るのは、「飲めているか」ではなく「どう飲めていないか」です。1回にかかる時間・途中で休む回数・むせの有無・疲れ方。関連図の「易疲労、哺乳時間延長」は、そのまま観察項目になります。
症状② 口唇の裂け目・口唇や鼻の変形

2つめは、目に見える症状です。関連図では、ここも2本の道に分かれています。
裂け目ができるまでは、胎生期の内側鼻突起・上顎突起の癒合不全 → 上唇中央部・外側部の癒合不全 → 皮膚、筋層、粘膜の連続性欠如 → 上唇の裂隙残存。
鼻の変形が起こるまでは、口唇の連続性途絶 → 口輪筋の輪状構造形成不全 → 鼻翼基部などへの筋異常付着 → 口唇、鼻翼の牽引方向の偏り → 鼻翼軟骨の変形・偏位 → 鼻翼扁平化、鼻孔変形、口唇輪郭不整。
2本目の道が、この症状のいちばん大事なところです。くちびるのまわりには口輪筋という筋肉があります。名前のとおり、輪っかになっている筋肉です。輪が切れていると、筋肉は行き場を失って、別の場所にくっつきます。その行き先が鼻翼基部——小鼻の付け根です。
切れた口輪筋が小鼻の付け根に付いてしまうと、顔を動かすたびに引っぱられます。引っぱられ続けると鼻翼軟骨が変形し、小鼻がつぶれ(鼻翼扁平化)、鼻の穴の形が変わります。だから手術は、皮膚を縫い合わせるだけではありません。切れた口輪筋を、本来の輪の形につなぎ直します。
この症状について、書き方に気をつけたいことがあります。医学の言葉としては「変形」「不整」と書きます。でも、ご家族やご本人の前で使う言葉は、それと同じである必要はありません。記録に書く言葉と、ベッドサイドで口にする言葉は、分けて考えてください。実習記録では「見た目」ではなく「筋の連続性が断たれている」という書き方ができます。
症状③ 体重増加不良

3つめは、哺乳障害がそのまま続いた先にあります。
哺乳の早期中断 → 乳汁摂取量不足 → 必要なエネルギー不足 → 身体組織の増加不良 → 体重増加不良。
わずか4段です。あいだに何も挟まっていません。飲めない時間が続けば、体重は増えません。それだけです。だからこそ、哺乳への介入が、そのまま栄養への介入になります。
関連図には、その先も描かれています。たんぱく質・エネルギー不足 → 貯蔵脂肪などの分解・消費 → 身体組織の合成・成長障害 → 低栄養。「増えない」のは入ってくる量が足りない段階、「減りはじめた」ら自分の体を削っている段階です。
実習で大事なのは、この症状が数字にしか出ないことです。赤ちゃんは訴えません。体重測定と成長曲線が、唯一の声です。1点の体重ではなく線として見て、横ばいになった時点が介入を強めるタイミングになります。そして「1回何mL・何分・何回」という哺乳の記録と、体重の線を並べて見てください。
口唇裂・口蓋裂の合併症の関連図

合併症の3つには、はっきりした並びがあります。滲出性中耳炎は耳管が開かなくなって中耳に液がたまる状態、伝音難聴はその液が音の伝わりを邪魔する状態で、滲出性中耳炎の続きです。そして上顎の発育不全は、成長とともにあとから出てきます。
時間軸が違います。中耳炎と難聴は乳幼児期から、上顎の発育不全は成長を追って現れます。そして、前の2つは「同じ1本の道」です。
合併症① 滲出性中耳炎

1つめは、口蓋と耳がつながっているという話です。
口蓋帆張筋の走行、付着異常 → 嚥下時の耳管開大機能低下 → 耳管開放不全 → 中耳の換気、排液障害 → 中耳内の空気吸収、陰圧化 → 中耳粘膜からの液体滲出 → 滲出性中耳炎。
出発点の口蓋帆張筋が、この合併症のすべてです。これは口蓋(上あご)の奥にある筋肉で、①口蓋を緊張させる ②耳管を開くの2つの仕事をしています。ふだんは、つばを飲み込むたびに耳管が開いて中耳に空気が入ります(高いところで耳がツンとしたとき、つばを飲むと治るのはこれです)。
口蓋裂では、この筋肉の走行と付着が変わってしまうため、飲み込んでも耳管が開きません。耳管が開かないと中耳の空気はだんだん吸収されて減り、中が陰圧になります。陰圧になった空間は、まわりから液を引き込みます。こうして中耳に液がたまったのが滲出性中耳炎です。
ここで大事なのは、この中耳炎が痛くないということです。急性中耳炎のように熱も出なければ、耳も痛がりません。だから気づかれにくい。見つけ方は、次の合併症にあります。
合併症② 伝音難聴

2つめは、さきほどの道の続きです。
中耳内の液体貯留 → 耳小骨、鼓膜の振動障害 → 内耳への音伝達低下 → 伝音難聴。
たった3段。滲出性中耳炎の続きに、そのまま書かれています。音は、鼓膜が震え、耳小骨がその震えを内耳へ運ぶことで伝わります。中に水が入っていると、太鼓は鳴りません。
「伝音」難聴であることにも意味があります。伝音難聴は音を伝える部分(外耳・中耳)の問題で、内耳や神経は無事です。感音難聴は内耳や聴神経の問題で、音を感じ取る側が傷んでいます。口唇裂・口蓋裂で起こるのは伝音難聴なので、聞く力そのものは残っていて、液が抜ければ聞こえは戻りえます。
この合併症がこわいのは、耳そのものより「ことば」への影響です。口唇裂・口蓋裂のお子さんは、もともと発音の課題を抱えやすい状態にあります(関連図にも鼻咽腔閉鎖不全から開鼻声へ向かう道が描かれています)。そこへ「聞こえにくい」が重なると、ことばの獲得はさらに難しくなります。
実習で覚えておきたいのは、痛がらない中耳炎を、聞こえで見つけるということです。呼んでも振り向かない・テレビの音が大きい・呼びかけへの反応が鈍い。ご家族からのこうした話が、いちばん早いサインになります。
合併症③ 上顎の発育不全

3つめは、時間をかけて現れる合併症です。関連図には2本の道が描かれていて、2本目がこの疾患のいちばん難しいところです。
もともとの形成異常からは、上顎周囲の骨・軟組織の先天的形成異常 → 成長関連組織の量、形態、機能異常 → 上顎成長不良 → 上顎の前方、側方成長不足。
手術のあとの瘢痕からは、口唇形成術・口蓋形成術 → 術創の治癒 → 口唇、口蓋の瘢痕形成 → 瘢痕収縮、伸展性低下 → 歯槽部、上顎への持続的牽引 → 上顎の前方、側方成長抑制。
2本目の出発点は「手術」です。閉じるための手術をすると、そこに瘢痕(きずあと)ができます。瘢痕は縮んで、伸びにくくなります。その瘢痕が、成長していく上あごをずっと後ろへ引っぱり続けます。
手術をしなければ、飲めない・話せない・鼻と口がつながったままです。口蓋を閉じることは、ことばの発達のために必要な治療です。
では、どうするか。手術をしたうえで、成長を長く追いかけます。一次情報も「反対咬合が必発します」「矯正歯科治療が必要となります」としています。この疾患が長い治療になる理由が、ここにあります。生まれてすぐの手術で終わりではありません。
関連図には、歯そのものへの影響も描かれています。歯の位置は、歯槽部の骨・歯肉の形態異常 → 歯槽骨の偏位、傾斜 → 歯胚の位置・方向異常 → 歯の傾斜、捻転、異所萌出。歯の数は、胎生期の顎裂部周囲の組織形成障害 → 歯胚形成障害 → 歯の先天性欠如。咬み合わせは、上下の歯列の位置・幅の不調和 → 正常な咬合関係の形成不全 → 反対咬合、交叉咬合。だから外科だけでは完結せず、歯科・矯正歯科が長く関わります。
口唇裂・口蓋裂の検査

この疾患の検査には、ほかの疾患と決定的に違うところがあります。診断そのものは、見ればつきます。採血でも画像でもありません。口唇裂は生まれた瞬間に、口蓋裂は口の中を見れば分かります。では何を検査するのか。「診断」ではなく「これから起こることを見つけるため」です。
生まれる前に分かることもあります。口唇裂は、出生前の胎児超音波検査で指摘されることがあります。⚠️ ただし口の中の構造は超音波では見えにくいので、口唇裂がなく口蓋裂だけの場合、出生前に分からないことが多いものです。分かったときに大事なのは、ご家族は生まれる前から不安を抱えているということ。情報と、相談できる場所につなぐことが看護になります。
生まれたあと、まず確かめるのは、どこが・どこまで閉じていないか。くちびるだけか、歯ぐきまでか、上あごの奥までか。片側か両側か(内訳でいちばん多いのは片側性の唇顎口蓋裂 40%)。染色体の異常や、ほかの先天異常を伴うことがあるので、全身も確認します。そして哺乳を実際に見ます——1回何mL・何分・何回・むせの有無・疲れ方。これが最初の観察になります。
そのあと、くり返し見ていくものは5つ。体重と成長曲線(1点ではなく線で見る)、耳と聞こえ(滲出性中耳炎は痛がらないので、聴力検査と鼓膜の所見で見つける)、ことば(鼻咽腔閉鎖が不十分だと発音が鼻に抜ける開鼻声になる。言語聴覚士が評価する)、必要に応じた鼻咽腔内視鏡検査、そして歯と咬み合わせ(歯科エックス線検査・咬合検査で、歯や顎骨の発育を追う)。
この疾患の「検査」は、一度で終わりません。生まれた日から、成長が終わるまで続きます。
口唇裂・口蓋裂の治療

治療は、年齢に沿って順番に進みます。
| 時期 | すること | ねらい |
|---|---|---|
| 生後できるだけ早く | ホッツ床(口の中に入れるプレート) | 飲めるようにする・あごの成長を助ける |
| 生後3〜6か月 体重5kg以上が目安 |
口唇形成術 | くちびるを閉じる・口輪筋をつなぎ直す |
| 1歳半〜2歳ごろ | 口蓋形成術 | ことばの発達に間に合わせる |
| そのあと長く | ことばの訓練/耳の管理/矯正歯科 | 発音・聞こえ・咬み合わせを整える |
出典:日本口腔外科学会「口唇裂口蓋裂などの先天異常」。時期は目安であり、状態によって変わります
表に入りきらない治療が、もう3つあります。顎裂部骨移植術は、顎裂(歯ぐきの土台の裂け目)を伴う場合に、永久歯の発育に合わせて骨の欠けた部分に骨を移植するもの。時期が「永久歯の生え方」で決まるので、学童期に行われることが多くなります。鼓膜換気チューブは、滲出性中耳炎に対して鼓膜にチューブを入れて中耳の換気を助けるもの。そして心理・家族支援——本人とご家族の、不安や外見・発音についての悩みに対応する、成長に合わせて継続的に行う立派な治療のひとつです。
表を見ると、時期が体重や月齢で決まっているのが分かります。ホッツ床が早いのは、飲めないと体重が増えないから。手術に必要な体重に届かせるためでもあります。口唇形成術が「体重5kg以上」なのは、麻酔と手術に耐えられる体をつくってから行うため。だから哺乳の支援が、そのまま手術への準備になります。口蓋形成術が1歳半〜2歳なのは、ことばが出はじめる時期に間に合わせるためです。
それでも残ることがあります。一次情報は「手術後も鼻咽腔の閉鎖が不十分な場合は、発音が鼻声となります」としています。スピーチエイドという装置を使うこともあります。
そして、この疾患の治療でいちばん特徴的なのはひとつの科では終わらないことです。形成外科・口腔外科が手術を、小児科と看護が哺乳と体重・全身の状態を、耳鼻咽喉科が滲出性中耳炎と聞こえを、言語聴覚士が発音とことばの発達を、歯科・矯正歯科が歯並び・咬み合わせ・上あごの成長を担当します。そして、いちばん長く関わるのはご家族です。看護は、この多くの職種とご家族のあいだに立ちます。
看護のポイント

いちばん大事なのは、ご家族に「原因」を断定しないことです。原因が不明なものが7割。人での発生要因として確認されたものは、ほとんどありません。くちびると上あごができるのは妊娠5〜12週ごろで、多くの方が妊娠に気づくころには、もう過ぎています。「誰のせいでもありません」と、はっきり言える根拠があります。
「飲めているか」ではなく「どう飲めていないか」を見ます。1回何mL・何分かかったか・途中で何回休んだか・むせたか・疲れ方はどうか。関連図の「易疲労、哺乳時間延長」が、そのまま観察項目になります。乳汁が鼻から出ることもあり、ご家族が驚く場面なので、先に伝えておきます。
体重は「線」で見ます。赤ちゃんは訴えません。体重測定と成長曲線が、唯一の声です。増えないのは入ってくる量が足りない段階、減りはじめたら自分の体を削っている段階。哺乳の記録と体重の線を、並べて見てください。
痛がらない中耳炎を、聞こえで見つけます。滲出性中耳炎は熱も出ず、耳も痛がらないので気づかれにくいものです。呼んでも振り向かない・テレビの音が大きい・反応が鈍い——ご家族からのこの話が、いちばん早いサイン。ことばを覚える時期の「聞こえにくい」は、ことばの発達に響きます。
記録の言葉と、ベッドサイドの言葉を分けます。医学の記録では「変形」「不整」「裂」と書きます。でも、ご家族の前で同じ言葉を使う必要はありません。その子の顔のことを話している、ということを忘れないでください。
治療は長いと、最初に伝わっているか確かめます。生後すぐのホッツ床 → 3〜6か月で口唇形成術 → 1歳半〜2歳で口蓋形成術 → そのあと、ことば・耳・矯正歯科。「手術が終われば終わり」ではありません。先の見通しを持てることが、ご家族の支えになります。
そしてご家族の気持ちに、先回りして場所をつくります。生まれてすぐ、ご家族は驚きと不安のただ中にいます。「自分のせいではないか」と考えてしまう方は、少なくありません。聞かれる前に、7割は原因不明だと伝えておく。そして、同じ経験をした家族の会や相談できる場所につなぎます。
この疾患の看護は、「長い時間の、最初の入口に立つこと」だと思います。手術も、ことばの訓練も、矯正も、これから何年もかけて進みます。その最初の数日に出会うのが、病棟の看護です。だから、飲み方を見て、体重を追って、言葉を選んで、先の見通しを渡します。
まとめ
口唇裂・口蓋裂の関連図は、入口から症状まで長くつながっています。でも、たどっていくと全部1本の道に集まります。丸暗記ではなく、矢印で理解してみてください。
発生関連遺伝子の発現異常・細胞障害 → 顔面形成細胞の増殖、遊走、分化の障害 → 顔面突起、口蓋突起の成長や癒合の障害 → 上唇または口蓋の連続性形成不全。
くちびるは妊娠5〜8週ごろ、上あごの奥は妊娠7〜12週ごろにできあがります。左右から伸びてきた突起が出会って癒合する——その途中で止まったのが、この疾患です。遺伝子の変化も、母体の糖尿病・肥満も、喫煙も、全部この1本に合流します。そして、原因が不明なものが7割です。
哺乳障害……口と鼻がつながる → 口の中を真空にできない。ストローに穴があいている状態
口唇・鼻の変形……口輪筋が輪にならず、切れた筋肉が小鼻の付け根に付いて引っぱる
体重増加不良……哺乳障害の、そのままの続き。4段しかない
滲出性中耳炎 → 伝音難聴……口蓋帆張筋は耳管を開く筋肉でもある。そして痛がらない
上顎の発育不全……先天的な形成異常に加えて、手術の瘢痕が上あごを引っぱり続ける
原因が不明なものが大多数を占め、7割に達しています。人での発生要因として確認されたものは、ほとんどありません。くちびると上あごができるのは妊娠5〜12週ごろ。多くの方が妊娠に気づくころには、もう過ぎています。
治療は、生後すぐのホッツ床から成長が終わるまで続きます。ひとつの科では終わらず、形成外科・小児科・耳鼻咽喉科・言語聴覚士・矯正歯科、そしてご家族が関わります。看護は、その長い時間のいちばん最初の入口に立ちます。
覚えるコツは、「裂けたのではなく、閉じきらなかった」という一文です。そして看護としていちばん大事なのは、ご家族が自分を責めなくていいように、先回りして伝えること。
ご家族が何気なく言った「私が何かしたんでしょうか」という一言。それに、根拠をもって「違います」と答えられるか——そこが、この疾患を学ぶ価値だと思います。
追加した関連図が、みなさんの実習記録づくりの助けになればうれしいです。「この疾患も追加してほしい」というリクエストは、公式LINEやお問い合わせからいつでもお待ちしています!
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■ 出典・参考資料
- 日本口腔外科学会「口唇裂口蓋裂などの先天異常」 https://www.jsoms.or.jp/public/disease/setumei_senten/
- 岡山大学病院 口唇裂・口蓋裂総合治療センター「発生率と病因」 https://www.okayama-u.ac.jp/user/ohaclcpc/nav02_1.html
- 日本形成外科学会「口唇口蓋裂(唇顎口蓋裂)」 https://jsprs.or.jp/general/disease/umaretsuki/kuchi/koshinkogairetsu.html
- 関連図の内容は「らくらく関連図」アプリ収録の口唇裂・口蓋裂の関連図に基づいています