看護学生のみなさんにお知らせです!

このたび、「らくらく関連図」アプリに橋本病の関連図を追加しました。

橋本病について、いきなり大事なことをお伝えします。

橋本病は、「甲状腺機能低下症」という意味の病名ではありません。

橋本病とは、免疫が自分の甲状腺を攻撃し、慢性の炎症が続いている状態のことです。ホルモンが足りなくなるのは、その結果として起こることがある、という位置づけになります。

実際、日本内分泌学会によれば橋本病のうち甲状腺機能低下症になるのは4〜5人に1人未満とされています。つまり多くの人は、甲状腺の機能が正常なまま経過します。

ここを取り違えると、症状も検査も治療も、全部つながらなくなります。逆にここさえ押さえれば、あとは「基礎代謝が下がると、どうなるか」を追いかけるだけで読み解けます。

🔗 あわせて読むと理解が深まります

この記事は、バセドウ病の関連図の記事正反対の型で書いています。どちらも「自己免疫で甲状腺が攻撃される病気」ですが、バセドウ病は刺激されて働きすぎ、橋本病は壊されて足りなくなる2本セットで読むと、甲状腺の疾患がまとめて整理できます。

それでは、関連図の流れにそって原因・症状・合併症を解説していきます。

橋本病とはどんな病気?

橋本病の全体像の図解。リンパ球が甲状腺を敵とみなし、甲状腺の中に入り込んで慢性の炎症が続き、一部の人でホルモンが足りなくなる流れを示している。橋本病は甲状腺機能低下症という意味の病名ではなく、機能低下になるのは4〜5人に1人未満であることを伝えている

橋本病は、慢性甲状腺炎とも呼ばれる自己免疫疾患です。免疫の異常によって、自分の甲状腺が慢性的に攻撃されつづけます。

攻撃の主役はリンパ球です。甲状腺の組織にリンパ球がびまん性に入り込み(浸潤し)、炎症が長く続くことで、甲状腺の組織が少しずつ壊れていきます。

ここで、日本甲状腺学会の診断ガイドラインを見てみましょう。橋本病の診断は、こうなっています。

■ 慢性甲状腺炎(橋本病)の診断ガイドライン(出典:日本甲状腺学会『甲状腺疾患診断ガイドライン2024』)
臨床所見
びまん性甲状腺腫大(萎縮の場合もある)
検査所見
抗甲状腺ペルオキシダーゼ抗体が陽性抗サイログロブリン抗体が陽性細胞診でリンパ球浸潤を認めるのいずれか
除外規定
バセドウ病を除く

気づいたでしょうか。診断の条件に、「甲状腺ホルモンが低い」という項目が入っていません。

橋本病の診断は、「甲状腺がはれていること」と「甲状腺に対する自己抗体があること」で決まります。機能が正常でも、橋本病は橋本病です。

■ 数字で見る橋本病(出典:日本内分泌学会「橋本病(慢性甲状腺炎)」)
頻度
成人女性の10人に1人、成人男性の40人に1人にみられる。とても頻度の高い病気
男女比
1対20〜30。圧倒的に女性に多い
好発年齢
30〜40代の女性に発症することが多い。幼児や学童はまれ
機能低下になる割合
橋本病のうち甲状腺機能低下症になるのは4〜5人に1人未満

この「10人に1人」という数字は、実習でも意味を持ちます。受け持ちの主疾患が別でも、既往に橋本病がある患者さんに出会う可能性は十分にあります。

では、バセドウ病とは何が違うのか。同じ「自己免疫で甲状腺が攻撃される病気」なのに、なぜ正反対の症状が出るのか。ここを整理しておきます。

■ バセドウ病と橋本病 同じ甲状腺の自己免疫疾患なのに、なぜ逆になるのか
バセドウ病
抗体が甲状腺の受け口(受容体)を刺激する → 甲状腺が働きすぎる → ホルモンが増える
全身のアクセルが踏みっぱなし(動悸・体重減少・多汗・暑がり)
橋本病
リンパ球が甲状腺の組織そのものを壊す → 働ける細胞が減る → ホルモンが足りなくなることがある
全身のはたらきがゆっくりになる(体重増加・寒がり・便秘・眠気)

刺激されるか、壊されるか。この一語の違いが、そのまま正反対の症状を生んでいます。

🔗 あわせて読むと理解が深まります

バセドウ病の「アクセルが踏みっぱなし」のしくみは、バセドウ病の関連図の記事でくわしく解説しています。この記事と読み比べると、甲状腺のホルモンが「多いとき」と「少ないとき」が対になって理解できます。

正常な甲状腺のはたらきと、壊されていくまで

正常な甲状腺と橋本病の甲状腺を比べた図解。甲状腺濾胞細胞が必要なだけホルモンを作っている状態と、リンパ球が浸潤して働ける細胞が減っていく状態を並べ、甲状腺にはもともと余力があるため攻撃を受けていても検査値が正常なことがあると示している

関連図に入る前に、正常な状態を確認しておきます。

甲状腺は、のどぼとけの下にある、蝶が羽を広げたような形の臓器です。ここで甲状腺ホルモンが作られています。

甲状腺ホルモンの役割は、ひとことで言えば「全身の代謝のスピードを決めること」です。

■ 甲状腺ホルモンが十分にあるとき(正常)
熱を作る
体温を保つ。だから寒さに耐えられる
エネルギーを使う
食べたぶんを消費する。だから体重が保たれる
内臓を動かす
心臓の拍動、腸のぜん動が保たれる
脳をはたらかせる
考える、覚える、話す。表情が動く

ホルモンを作っているのは、甲状腺の中にある甲状腺濾胞細胞という細胞です。丸く輪になって並び、その中央にホルモンの材料をためています。この細胞の数が、そのままホルモンを作る力になります。

橋本病では、ここで何が起きるのか。

■ 正常な甲状腺と、橋本病の甲状腺
正常な甲状腺
甲状腺濾胞細胞がすきまなく並び、必要なだけホルモンを作って血液へ送り出している
橋本病の甲状腺
リンパ球がびまん性に入り込み、甲状腺濾胞細胞を攻撃する。炎症が慢性的に続き、働ける甲状腺濾胞細胞が少しずつ減っていく

ここで、この病気の性質を決める大事な事実があります。甲状腺には、もともと余力があります。

細胞が少し減っても、残った細胞ががんばれば、必要なホルモン量は保てます。だから攻撃を受けていても、しばらくは血液検査の値が正常のままです。

余力を使い切ったときに、はじめてホルモンが足りなくなる。これが「橋本病のうち機能低下になるのは4〜5人に1人未満」という数字の意味です。病気があることホルモンが足りないことは、別の段階なのです。

そしてもうひとつ。ホルモンが足りなくなったときに起こることは、ひとことで言えます。

全身の基礎代謝が下がる。これだけです。橋本病の症状のほとんどは、この一点から枝分かれしているだけなので、暗記する量は思っているよりずっと少ないです。

橋本病の原因の関連図

橋本病の原因の関連図。遺伝的要因・妊娠・出産・精神的身体的ストレスなどの入口から、自己反応性Tリンパ球が活性化し、甲状腺の成分を異物と誤認して甲状腺濾胞細胞を攻撃、慢性の炎症が持続して慢性甲状腺炎(橋本病)に至るまでを矢印でつないだ図
らくらく関連図アプリより一部抜粋

橋本病の入口は複数ありますが、関連図を見るとどれも同じ1点に集まります。

それが「自己反応性Tリンパ球が活性化する」という一歩です。ここを越えると、あとは1本道になります。

■ 活性化したあとの共通ルート(ここは全部同じ)
自己反応性Tリンパ球が活性化 → 甲状腺の成分を異物と誤認する
甲状腺へ向かう
甲状腺組織へ移動し、甲状腺濾胞細胞を攻撃する
仲間を呼ぶ
炎症性サイトカインが放出され、周囲の免疫細胞が活性化。Tリンパ球・Bリンパ球などが甲状腺に凝集・浸潤する
攻撃が強まる
甲状腺濾胞細胞への攻撃が増強し、甲状腺の炎症が慢性的に持続する
結果
甲状腺濾胞細胞が障害 → 橋本病

ここで注目してほしいのは、「炎症性サイトカインが仲間を呼ぶ」という段階です。攻撃が攻撃を呼ぶ形になっているので、いったん始まると自然におさまりにくい——これが「慢性」甲状腺炎と呼ばれる理由です。

では、3つの入口をそれぞれ見ていきます。

原因① 遺伝的要因

橋本病の原因のうち遺伝的要因を示した図解。免疫を調節する遺伝子の異常から、自分と異物の区別がつきにくくなり、甲状腺の成分を異物として認識して自己反応性Tリンパ球が活性化するまでの流れを示している

橋本病でいちばん背景にあるのが、この遺伝的要因です。

関連図の流れはこうです。遺伝的要因 → 免疫反応を調節する遺伝子の異常 → 自己と異物を区別する免疫機能が乱れる → 甲状腺の成分を異物として認識 → 自己反応性Tリンパ球が活性化

ポイントは「自己と異物を区別する免疫機能」という言い方です。免疫には本来、「これは自分の体だから攻撃しない」という見分け方が備わっています。この見分け方を作っているのが、免疫を調節する遺伝子です。

その遺伝子に異常があると、見分けの精度が落ちます。その結果、甲状腺の成分が「異物」として拾われてしまう——これが出発点です。

ここで、患者さんや家族から必ず聞かれることがあります。「これは遺伝する病気ですか?」という質問です。

答え方としては、「なりやすさが受け継がれることはあるが、遺伝子だけで発症が決まるわけではない」が正確です。関連図でも、遺伝的要因から橋本病まで何段階もの矢印を経ています。遺伝的要因は「発症する運命」ではなく「引き金が効きやすい体質」だと考えてください。

実際、家族に甲状腺の病気やほかの自己免疫疾患がある方は少なくありません。実習で家族歴を聞くのは、原因を突き止めるためではなく、全体像をつかむためです。聞き方ひとつで受け取られ方が変わるところなので、意識しておくと役に立ちます。

原因② 妊娠・出産

橋本病の原因のうち妊娠・出産を示した図解。妊娠中に胎児を攻撃しないよう免疫がゆるめられ、出産でその抑制が解除されて免疫機能が反跳的に活性化し、甲状腺への攻撃が始まる流れを、押さえられたばねと跳ね返るばねで示している

これは、関連図の中でいちばんおもしろい流れだと思います。免疫が「抑えられていたから、反動で強く戻る」という話だからです。

関連図の流れを追ってみましょう。

■ 妊娠から出産後まで
① 妊娠する
胎児を攻撃しないよう、母体の免疫機能が変化する
② 免疫が抑えられる
自己免疫反応が一時的に抑制される。★このあいだは、橋本病の症状もやわらぐことがある★
③ 出産
妊娠が終わる
④ 抑制が解除される
妊娠中の免疫抑制が解除される
⑤ 反動で強く戻る
免疫機能が反跳的に活性化する
⑥ 結果
自己反応性Tリンパ球が活性化し、甲状腺への攻撃が始まる・強まる

まず、②を理解してください。おなかの赤ちゃんは、母親にとって半分は「自分ではない」細胞です。本来なら免疫が攻撃してもおかしくありません。

そこで妊娠中は、母体の免疫がゆるめられます。赤ちゃんを守るための、よくできた仕組みです。

問題は、そのあとです。出産で妊娠が終わると、ゆるめられていた免疫が元に戻ります。しかもただ戻るのではなく、反跳的に——押さえつけられていたばねが跳ね返るように、強く戻ります。

その勢いが、自分の甲状腺にも向かってしまうのです。

これは臨床でも実際に見られることで、日本内分泌学会によれば、橋本病の方が出産すると約6割が産後無痛性甲状腺炎や甲状腺機能低下症を合併するとされています。

■ 産後のケアで押さえたいこと
産後は甲状腺の変化が起こりやすい
橋本病がある方の産後は、甲状腺の機能が動きやすい時期。定期的な血液検査が組まれる
育児の疲れと区別しにくい
だるい・眠い・気力が出ない・体重が戻らない——これらは、育児の疲れでも起こる。だから「産後だからしかたない」で片づけられやすい
妊娠中は必要量が増える
妊娠すると甲状腺ホルモンの必要量が約1.3〜1.5倍に増えるとされる。すでに薬を飲んでいる方は、妊娠がわかった時点で主治医に相談する

「産後だから、こんなものだろう」で終わらせない。ここが、この原因を知っている人にしかできない関わりです。

原因③ 精神的・身体的ストレス

橋本病の原因のうち精神的・身体的ストレスを示した図解。自律神経系と内分泌系の反応が高まり、免疫機能のバランスが乱れて自己反応性Tリンパ球が活性化する流れを示している

3つめは、ストレスです。

関連図では、精神的・身体的ストレス → 自律神経系・内分泌系の反応亢進 → 免疫機能のバランスが乱れる → 自己反応性Tリンパ球が活性化という流れになっています。

この矢印を、少していねいに読み解きます。

強いストレスがかかると、体は自律神経系内分泌系を働かせて対応しようとします。心拍を上げる、ホルモンを出す——これ自体は、体を守るための正常な反応です。

ところが自律神経・内分泌・免疫の3つは、たがいに影響しあっています。だから片方が強く動くと、免疫のバランスにも影響が及びます。

関連図の言葉が「免疫機能のバランスが乱れる」となっているのは、正確な書き方です。免疫が弱くなるのでも、強くなるのでもなく、調子が狂う。その結果、自分を攻撃しないという抑えが、効きにくくなります。

ここでいう「身体的ストレス」には、感染症、手術、けが、極端な疲労なども含まれます。心の負担だけの話ではないという点に注意してください。

ただし、患者さんへの伝え方には気をつけたいところです。「ストレスのせいで病気になった」と言わないこと。

ストレスは関わっていると考えられている入口のひとつであって、原因が確定しているわけではありません。そして何より、「自分の心が弱かったからだ」と受け取られると、患者さんを追い込みます。

伝えるなら、「疲れがたまると甲状腺の調子にも影響することがあるので、休む時間をつくれるといいですね」——これで十分です。

橋本病の症状の関連図

橋本病の症状の関連図。甲状腺ホルモン産生能力低下から全身の基礎代謝低下を経て、熱産生低下やムコ多糖類の蓄積による体重増加・浮腫に至る流れと、甲状腺に対する自己免疫反応からびまん性甲状腺腫大に至る流れを矢印でつないだ図
らくらく関連図アプリより一部抜粋

症状の数はとても多く見えます。でも、関連図を見ると2つの流れしかありません。

■ 橋本病の症状は、2つの流れに分かれる
流れA:甲状腺そのものの変化
甲状腺に対する自己免疫反応 → リンパ球の浸潤 → 炎症 → 甲状腺がはれる
びまん性甲状腺腫大(★ホルモンが正常でも起こる★)
流れB:ホルモンが足りないことによる変化
甲状腺ホルモン産生能力低下 → 甲状腺ホルモン低下 → 全身の基礎代謝低下
ここから、ほとんどの症状が枝分かれする

流れAは、機能が正常な人にも起こります。甲状腺の「はれ」は炎症そのものによる変化で、ホルモンの量とは別だからです。

そして流れBは、「基礎代謝が下がると、その臓器はどうなるか」を当てはめるだけで読めます。

■ 基礎代謝が下がると、どうなるか
熱を作れない
低体温・寒がり(耐寒性低下)・発汗低下
エネルギーを使わない
体重増加
腸が動かない
便秘・食欲低下
脳がはたらかない
眠気・思考力低下・認知機能低下・言語緩慢・無関心様表情
筋肉が動かない
筋力低下・筋肉痛・腱反射弛緩相の遅延
皮膚・毛が作られない
皮膚乾燥・脱毛
心臓がゆっくり
徐脈・低血圧

ここまでは「スピードが落ちた」で説明がつきます。ところが——1つだけ、これでは説明できない症状があります。

それが浮腫です。代謝が落ちただけなら、体がむくむ理由にはなりません。ここには別のしくみが働いています。症状③でくわしく見ていきます。

それでは、びまん性甲状腺腫大・体重増加・浮腫の3つを見ていきます。

症状① びまん性甲状腺腫大

橋本病でびまん性甲状腺腫大が起こるしくみの図解。リンパ球がびまん性に浸潤して慢性の炎症が起こり、血管透過性が亢進して水がたまり甲状腺全体の容積が増加する流れと、バセドウ病の甲状腺腫との違いを示している

橋本病の診断ガイドラインの臨床所見に、そのまま挙がっている症状です。

まず、言葉を確認します。「びまん性」とは、全体に広がっているという意味です。しこりのように一部だけが大きくなるのではなく、甲状腺全体が均一にはれます。

関連図の流れを追ってみましょう。この症状だけは、ホルモン低下の枝ではありません。

■ 甲状腺がはれるまで
① 自己免疫反応
甲状腺組織にリンパ球がびまん性に浸潤する。★全体に、まんべんなく入り込む。だから「びまん性」★
② 攻撃と傷害
リンパ球が甲状腺組織を攻撃し、甲状腺濾胞細胞が傷害される
③ 慢性の炎症
甲状腺全体に慢性的な炎症が起こる
④ 血管がゆるむ
血管透過性が亢進する。炎症が起きた場所では、血管の壁のすきまが広がる
⑤ 水がたまる
甲状腺組織に水分が貯留し、浮腫が起こる
⑥ 大きくなる
甲状腺全体の容積が増加し、びまん性甲状腺腫大として触れるようになる

つまり、はれの中身は「炎症でたまった水」です。甲状腺が元気に働いて大きくなったわけではありません。むしろ攻撃を受けた結果として、はれています。

ここが、この記事でいちばん取り違えられやすいところです。バセドウ病でも「びまん性甲状腺腫」が出ます。同じ言葉なのに、中身がまったく違います。

■ 同じ「びまん性甲状腺腫」でも、中身が違う
バセドウ病のはれ
抗体に刺激されて甲状腺が働きすぎている。細胞が増えて活動的になり、血流も増えて大きくなる。働きすぎてふくらんだはれ
橋本病のはれ
リンパ球に攻撃されて炎症が起きている。血管がゆるんで水がたまり、大きくなる。炎症で水がたまったはれ

触ったときの感じも変わります。橋本病では、表面がやや硬く、ごつごつした感じ(弾性硬)に触れることが多いとされます。触診が検査項目に入っているのは、こうした違いを見ているからです。

そして、押さえておきたい例外があります。診断ガイドラインの臨床所見には「びまん性甲状腺腫大(萎縮の場合もある)」と書かれています。

つまり——橋本病でも、甲状腺が小さくなっていることがあります。炎症が長く続いて組織が入れ替わり、縮んでしまう場合です。「はれていないから橋本病ではない」とは言えないことを、覚えておいてください。

患者さんの訴えとしては、「首の圧迫感」「違和感」「首がつまる感じ」「えりが窮屈になった」という形で出てきます。痛みを伴わないことが多いので、本人が気にしていないこともあります。

🔗 あわせて読むと理解が深まります

バセドウ病の甲状腺腫が「働きすぎてふくらむ」しくみは、バセドウ病の関連図の記事で図解しています。同じ症状名で中身が違う、という感覚をつかむのに役立ちます。

症状② 体重増加

橋本病で体重増加が起こるしくみの図解。全身の基礎代謝が低下してエネルギー消費量が減り、脂肪分解も落ちて脂肪の蓄積と水分の貯留が起こる流れを示し、食べすぎではないことを伝えている

ホルモン不足の症状の中で、いちばん本人が気づきやすい症状です。

関連図の流れはこうです。甲状腺ホルモン産生能力低下 → 甲状腺ホルモン低下 → 全身の基礎代謝低下 → エネルギー消費量低下 → 脂肪分解低下 → 脂肪蓄積・水分貯留 → 体重増加

ここでいちばん大事なのは、「食べすぎたから太った」のではないということです。

■ 体重が増える2つの理由
① 使う量が減った
基礎代謝とは、何もしていなくても消費されるエネルギーのこと。甲状腺ホルモンは、この土台のスピードを決めている。ホルモンが減ると、じっとしているだけで使われるエネルギーが減る
② 脂肪を分解しなくなった
甲状腺ホルモンにはためこんだ脂肪を分解する働きもある。これが落ちるので、脂肪が蓄積していく

さらに関連図では「脂肪蓄積・水分貯留」と、水分も並べて書かれています。橋本病の体重増加は、脂肪だけでなく、たまった水も含まれているのです。

だから、こういう訴えになります。「食べる量は変えていないのに、体重が増えていく」。むしろ食欲は低下していることが多い(消化管の運動も落ちるため)のに、体重は増える——これが橋本病の体重増加の顔つきです。

ここは、看護としていちばん気をつけたいところだと思います。

患者さんは、体重が増えたことを自分の責任だと感じています。「だらしないから」「動かないから」と自分を責めている方は少なくありません。まわりからも、そう見られがちです。

でも、これは病気の症状です。「食べすぎではありませんよ」「ホルモンが足りないと、じっとしていても使われるエネルギーが減るんです」——このひとことが伝わるかどうかで、患者さんの気持ちはずいぶん変わります。

そして治療でホルモンを補うと、代謝が戻って体重も落ち着いてきます。見通しをあわせて伝えられると、なおいいですね。

症状③ 浮腫

橋本病の浮腫のしくみの図解。皮下組織でムコ多糖類の分解が低下して蓄積し、水分を引き寄せて浮腫が起こる流れと、押してへこむ圧痕性浮腫との違い、まぶた・舌口唇・声帯・皮膚に出る症状を示している

この症状だけは、「代謝が落ちた」では説明できません。別のしくみが働いています。そして、その違いが観察のポイントになります。

関連図の流れを見てみましょう。

■ 橋本病のむくみができるまで
① 基礎代謝が下がる
ここまでは、ほかの症状と同じ出発点
② 分解されなくなる
皮下組織でムコ多糖類の分解が低下する。★ムコ多糖類とは、皮膚の下にある、水をたくわえる性質を持つ成分★
③ たまっていく
作られる量は変わらないのに分解が追いつかず、皮下組織にムコ多糖類が蓄積する
④ 水を引き寄せる
ムコ多糖類が水分を引き寄せる
⑤ 水がたまる
皮下組織に水分が貯留し、組織間液が増加する
⑥ むくむ
浮腫として現れる

ここが決定的に重要です。橋本病のむくみは、「水が漏れ出してたまった」のではありません。

皮膚の下にたまった成分が、水を抱え込んでいる状態です。だから——

■ 押してへこむむくみと、へこまないむくみ
心不全や腎不全のむくみ(圧痕性浮腫)
血管から水が漏れ出して組織にたまっている。指で押すとへこみ、しばらく戻らない
橋本病のむくみ(非圧痕性浮腫)
ムコ多糖類が水を抱え込んでいる。指で押してもへこみにくい。★これを粘液水腫と呼ぶ★

この違いは、ベッドサイドで指1本あれば確かめられます。「むくんでいます」で終わらせず、押してへこむかどうかまで記録すると、情報の質が変わります。

むくみが出やすい場所にも特徴があります。関連図には、まぶた(眼瞼浮腫)、舌・口唇、皮膚全体(皮膚粘液水腫)、声帯と、それぞれ枝が描かれています。

■ どこがむくむと、どうなるか
まぶた
眼瞼浮腫。朝、目が開けにくい。顔がはれぼったい
舌・口唇
舌・口唇が腫大する。しゃべりにくい、食べにくい
声帯
声帯が厚くなり、振動しにくくなる嗄声・低声化。声がかすれ、低くなる
皮膚全体
皮膚の非圧痕性の肥厚・腫脹(皮膚粘液水腫)。押してもへこまない、厚ぼったい皮膚になる

「声がかすれてきた」「低くなった」は、見逃されやすいサインです。本人も家族も「かぜかな」と思っていることがあります。声の変化を、甲状腺と結びつけて考えられるか——ここが実習で差がつくところです。

橋本病の合併症の関連図

橋本病の合併症の関連図。肝臓での脂質代謝低下から動脈硬化に至る流れ、心臓の交感神経反応低下から心不全に至る流れ、重度の甲状腺機能低下症から粘液水腫性昏睡に至る流れを矢印でつないだ図
らくらく関連図アプリより一部抜粋

合併症は、ホルモン不足が長く続いた結果として起こります。ここでは動脈硬化・心不全・粘液水腫性昏睡を取り上げます。

読むときの視点を先にお伝えします。

■ 3つの合併症の位置づけ
動脈硬化
コレステロールの処理が追いつかなくなることで起こる。じわじわ進み、本人には何の自覚もない
心不全
心臓の動きがゆっくりになり、力も落ちることで起こる。だるさや息切れは、ホルモン不足そのものの症状と見分けにくい
粘液水腫性昏睡
これだけは急性の緊急事態。重度の甲状腺機能低下症に、感染や寒さなどが重なって起こる。死亡率は約30%と報告されている

前の2つはゆっくり進み、最後の1つは急に来ます。この時間の差を、はじめに押さえておいてください。

合併症① 動脈硬化

橋本病で動脈硬化が起こるしくみの図解。肝臓での脂質代謝が低下して低比重リポ蛋白コレステロールが増え、血管内膜に入り込んで炎症が起こり、マクロファージが泡沫細胞になって脂質が蓄積し動脈壁が硬くなる流れを示している

まずは、いちばん静かに進む合併症です。

甲状腺ホルモンには、肝臓でコレステロールを処理する働きを高めるという役割があります。ホルモンが減ると、この処理が落ちます。

■ コレステロールがたまり、血管が硬くなるまで
① 処理が落ちる
肝臓での脂質代謝が低下し、低比重リポ蛋白(LDL)の取り込み・分解が低下する
② 血液中に増える
血中の低比重リポ蛋白コレステロールが増加する(=脂質異常症)
③ 血管の壁に入り込む
増えたLDLが血管内膜に移動する
④ 異物とみなされる
酸化した低比重リポ蛋白を異物として認識し、血管内膜に炎症反応が起こる
⑤ 掃除しようとする
マクロファージが酸化した低比重リポ蛋白を取り込み泡沫細胞になる
⑥ 硬くなる
脂質が血管壁に蓄積し、動脈壁が肥厚して硬くなる → 動脈硬化

ここで注目してほしいのは、⑤のマクロファージです。マクロファージは掃除屋の細胞で、異物を食べて片づけてくれます。

ところが食べすぎて、自分が脂であふれてしまいます。その姿が泡のように見えるので泡沫細胞と呼ばれます。掃除に来た細胞が、その場に居座ってごみになってしまう——これが動脈硬化の中身です。

看護として大事なのは、この合併症には自覚症状がないということです。血管が硬くなっていくあいだ、患者さんは何も感じません。気づくのは、脳梗塞や心筋梗塞が起きたときです。

だからこそ、「コレステロールの値が高い」と言われたときに、それが甲状腺と関係している可能性を思い出せるかが意味を持ちます。

そして、ここは希望のある話でもあります。原因がホルモン不足なら、ホルモンを補うことでコレステロール値が改善することがあります。「食事だけの問題ではない」と伝えられると、患者さんの受け止め方も変わります。

合併症② 心不全

橋本病で心不全が起こるしくみの図解。心臓の交感神経反応が低下して、洞結節の自動能低下による徐脈と、心筋の収縮力低下による心不全の2つに分かれる流れを示し、1回に送る量と1分間に打つ回数の両方が同時に下がることを伝えている

次は心臓です。

甲状腺ホルモンには、心臓が交感神経の刺激に反応しやすくするという働きがあります。交感神経は「がんばれ」の合図を送る神経です。ホルモンが減ると、この合図への反応が鈍くなります。

関連図では、ここから2本に分かれます。

■ 心臓の交感神経反応が低下すると
ルート1:ゆっくりになる(リズム)
洞結節の自動能が低下洞結節での興奮の発生頻度が低下徐脈
ルート2:弱くなる(力)
心筋の収縮力が低下一回拍出量が低下心不全低血圧

洞結節は、心臓のリズムを作り出している場所です。ここが「今日はゆっくりでいいか」という状態になるので、脈が遅くなります。

そしてもう1本のルートでは、心臓の筋肉そのものの縮む力が落ちます。1回に送り出せる血液の量(一回拍出量)が減り、全身に十分な血液を届けられなくなります。

ここで、この2本が重なることの意味を考えてみてください。

全身に送られる血液の量は、「1回に送る量 × 1分間に打つ回数」で決まります。橋本病では、その両方が同時に下がります。

だから低血圧になり、だるさ・寒がり・むくみが強まります。

ここが、看護として難しいところです。心不全の症状は、橋本病そのものの症状とほとんど同じ顔をしています。

■ 見分けがつきにくい症状
橋本病そのものの症状
だるい/疲れやすい/むくむ/体重が増える/寒がり
心不全の症状
だるい/息切れ/むくむ/体重が増える/血圧が下がる

「橋本病だから、だるいのだろう」で片づけると、心不全の始まりを見逃します。

だからこそ、症状の訴えではなく、数字で追うことに意味があります。脈拍・血圧・体重・むくみの範囲を、日ごとに比べる。とくに体重の増え方が急になったときは、脂肪ではなく水がたまっているサインかもしれません。

合併症③ 粘液水腫性昏睡

橋本病の粘液水腫性昏睡の図解。重度の甲状腺機能低下症から呼吸・循環・体温の3つが同時に落ち、意識レベル低下に至る流れと、体温が下がる・脈が遅い・血圧が低いというふつうの急変と逆向きのサインを示している

この記事でいちばん警戒すべき合併症です。

粘液水腫性昏睡は、日本内分泌学会の解説によれば「重度の甲状腺ホルモン不足(甲状腺機能低下症)に際しておこる合併症」で、約30%の方が亡くなると報告されています。

まれな状態ですが、起きたときの重さがまったく違います。

関連図を見ると、重度の甲状腺機能低下症から3本の枝が出て、すべてが同じ場所に行き着きます。

■ 3つの枝が、同時に落ちていく
枝1:呼吸が落ちる
中枢神経系への作用が著しく低下脳幹の呼吸中枢の代謝・活動が低下 → 低酸素や二酸化炭素に対する反応が落ちる → 二酸化炭素が体内に蓄積・低酸素血症 → 脳への酸素供給が低下
枝2:循環が落ちる
心臓への作用が著しく低下 → 洞結節の自動能が低下・心筋細胞の収縮機能が低下 → 心拍数と心収縮力が低下 → 血圧低下脳血流量が低下 → 脳への酸素供給が低下
枝3:体温が落ちる
全身の基礎代謝が著しく低下熱産生が著しく低下低体温 → 脳神経細胞の活動が低下
合流点
意識レベル低下 → 粘液水腫性昏睡

呼吸・循環・体温。生命を支える3つが、同時にゆっくりになります。そして3本とも「脳の酸素が足りない」という一点に集まります。

ここで、知っておくべき大事なことがあります。これは自然に起こるのではなく、たいてい引き金があります。

■ 粘液水腫性昏睡の誘因(出典:日本内分泌学会「粘液水腫性昏睡」)
何らかの重症疾患の合併/感染症/外傷/中枢抑制作用のある睡眠薬等の服用/寒冷への曝露

この一覧を、看護の目で読み直してみてください。

■ 誘因を、看護の言葉に置きかえると
感染症
かぜ、肺炎、尿路感染。ふだんなら乗り越えられるものが、引き金になる
寒冷への曝露
冬。暖房のない部屋。夜間の冷え込み。もともと熱を作れない体に、寒さが重なる
睡眠薬など
中枢を抑える薬。すでに落ちている呼吸中枢を、さらに抑えてしまう
外傷・重症疾患
体に大きな負担がかかる出来事

そして、日本内分泌学会は予防についてこう書いています。「規則的に服薬はおこない、定期的に担当医を受診することが大切」

つまり、いちばんの予防は「薬を飲みつづけること」です。

症状が落ち着くと、「もう治った」と感じて薬をやめてしまう方がいます。橋本病の甲状腺ホルモン薬は足りないぶんを補っている薬なので、やめれば、また足りない状態に戻ります。

看護として拾いたいサインは、普通の急変とは逆の形で現れます。

■ 拾いたいサイン(★ふつうの急変と逆向き★)
体温
下がる。熱が出ないので「感染していない」と判断してしまいやすい。★感染が引き金でも、発熱しないことがある★
脈拍
遅くなる。頻脈ではない
血圧
下がる
呼吸
浅く、遅くなる。二酸化炭素がたまっていく
意識
反応が鈍い、眠りがち、話が通じにくい。「今日はなんだかぼんやりしている」から始まることがある

高齢の方では、これらが「年のせい」「認知症の進行」と受け取られがちです。そして冬の寒い時期に、かぜをきっかけに起こる——気づけるのは、いつもの様子を知っている人だけです。

🔗 あわせて読むと理解が深まります

バセドウ病にも、命に関わる急性の合併症があります。甲状腺クリーゼです。こちらは高熱・著しい頻脈・意識障害と、粘液水腫性昏睡とは正反対の形で現れます。そして——誘因の筆頭が「薬の自己中断」であることは、どちらも同じです。くわしくはバセドウ病の関連図の記事をご覧ください。

橋本病の検査

橋本病の検査をまとめた図解。自己抗体と甲状腺超音波・触診で橋本病かどうかを確かめ、遊離T4・遊離T3・甲状腺刺激ホルモンでホルモンが足りているかを確かめる2本立ての構成を示している

検査は、①橋本病かどうかを確かめる → ②ホルモンが足りているかを確かめるの2本立てで見ると、それぞれの意味が読み取れます。

この2本立てという構造が、そのまま橋本病という病気の性質を表しています。病気があることホルモンが足りないことは別だからです。

■ ①橋本病かどうかを確かめる検査(自己抗体・組織)
抗甲状腺ペルオキシダーゼ抗体
甲状腺に対する自己抗体の有無を確認する。診断ガイドラインの検査所見に挙がっている
抗サイログロブリン抗体
同じく甲状腺に対する自己抗体。こちらも診断ガイドラインの検査所見
甲状腺超音波検査
甲状腺の大きさや内部の構造を確認し、腫大や内部の不均一な変化を評価する
甲状腺触診
甲状腺の腫大、硬さ、表面の状態を確認する。★橋本病では、やや硬くごつごつした感じに触れることが多い★
■ ②ホルモンが足りているかを確かめる検査(機能)
甲状腺刺激ホルモン(TSH)
甲状腺から十分なホルモンが分泌されているかを評価する。甲状腺機能低下症では上昇する
遊離サイロキシン(遊離T4)
血液中の甲状腺ホルモン量を測定し、機能低下の程度を評価する
遊離トリヨードサイロニン(遊離T3)
同じく血液中の甲状腺ホルモン量を測定し、甲状腺機能を評価する

ここで、国試でも実習でも問われる大事なポイントがあります。なぜ甲状腺の病気なのに、TSHが上がるのか。

TSHは甲状腺刺激ホルモン——つまり脳(下垂体)から甲状腺へ送られる「もっと作れ」という指令です。

■ TSHが上がるしくみ
① 甲状腺ホルモンが減る
橋本病で甲状腺の組織が壊れ、作れる量が減る
② 脳が気づく
脳は血液中のホルモンが足りないことを感知する
③ 指令を強める
もっと作れ、と指令を強めるTSHが上昇する

TSHが高いのは、脳ががんばって指令を出しているサインです。甲状腺が元気なのではなく、むしろ指令を強めないと足りないほど弱っているということ。数字が上がる=機能が上がる、ではありません。

そして、TSHは早く動きます。ホルモンがまだ正常範囲でも、TSHだけが先に上がっていることがあります。これは「余力を使いはじめている」段階で、潜在性甲状腺機能低下症と呼ばれます。

日本甲状腺学会の原発性甲状腺機能低下症の診断ガイドラインでは、検査所見は「遊離T4低値およびTSH高値」とされています。2つをセットで見るということです。

なお、橋本病では定期的な血液検査を続けることそのものが治療の一部になります。いま機能が正常でも、あとから低下してくることがあるからです。「異常がなかったから、もう来なくていい」ではない——ここは患者さんに伝わりにくいところなので、説明の機会があると役立ちます。

橋本病の治療

橋本病の治療をまとめた図解。経過観察・甲状腺ホルモンの補充・量の調整・ヨウ素のとりすぎを避けること・長く続けることを示し、免疫を抑える薬は使わないことを伝えている

治療の考え方は、シンプルです。足りないぶんを、補う。足りているなら、何もしない。

橋本病の治療で最初に押さえるべきは、「治療をしない」という選択があることです。

■ 治療
経過観察
甲状腺機能が正常な場合は、定期的な血液検査で機能の変化を確認する。★橋本病のうち機能低下になるのは4〜5人に1人未満。多くの方は、この段階にとどまる★
レボチロキシン
不足している甲状腺ホルモンを補充し、甲状腺機能を正常に保つ
甲状腺ホルモン補充療法
甲状腺機能低下症がある場合に行う。甲状腺刺激ホルモンなどの値を確認しながら、投与量を調整する
定期的な血液検査
甲状腺刺激ホルモンや遊離サイロキシンを測定し、治療効果や投与量が適切かを評価する
ヨウ素摂取の管理
昆布などヨウ素を多く含む食品やサプリメントの過剰摂取を避ける
長期的な内服管理
永続的な甲状腺機能低下症では、甲状腺ホルモン製剤の継続的な内服が必要となることがある

いくつか、補足させてください。

まず、免疫を抑える治療は行いません。ほかの自己免疫疾患ではステロイドや免疫抑制薬が使われますが、橋本病では基本的に使いません。炎症を止めにいくのではなく、足りなくなったホルモンを補うという発想です。

これは、患者さんに説明するときに効きます。「免疫の病気なのに、免疫の薬を使わないんですか?」と聞かれることがあるからです。

次に、レボチロキシンについて。これはもともと体にあるホルモンと同じものを補う薬です。だから「新しい薬を体に入れる」のではなく、「足りないぶんを戻している」という理解になります。副作用を心配される方には、この説明が安心につながります。

ただし量の調整には時間がかかります。少なすぎれば症状が残り、多すぎればバセドウ病に似た症状(動悸・体重減少)が出ます。血液検査を見ながら、少しずつ合わせていくので、すぐに効果を実感できないこともあると伝えておくと、患者さんが途中であきらめずにすみます。

そして、ヨウ素について。ここは日本ならではの注意点です。

ヨウ素は甲状腺ホルモンの材料ですが、とりすぎると、かえって甲状腺の働きを抑えてしまいます。日本内分泌学会も「昆布やひじきなどのヨウ素を大量に含むような海藻類などを過剰に摂取することは避けましょう」としています。

■ ヨウ素の伝え方
避けたいもの
昆布・昆布だし・とろろ昆布・昆布茶・ひじき、ヨウ素を含むサプリメント「毎日たくさん」が問題
神経質にならなくてよいもの
のり・わかめは、ふつうに食べるぶんには含まれる量が少ない
伝え方のコツ
「海藻は禁止」と言わないこと。「昆布を毎日たくさんとるのは避けましょう」で十分。★食べられるものを増やす言い方をする★

最後に、いちばん大事なこと。甲状腺ホルモン薬は、多くの場合一生続ける薬になります。

そして、飲みつづけていれば、ふつうの生活が送れます。妊娠・出産もできます(必要量が増えるので、妊娠がわかったら主治医に相談します)。

つまりこの病気は、「薬を続けられるかどうか」で経過が決まります。症状が落ち着くと自己判断でやめてしまう方がいますが、その先にあるのが粘液水腫性昏睡です。ここが、看護のいちばんの仕事になります。

看護のポイント

橋本病の看護のポイントをまとめた図解。薬をやめさせない、粘液水腫性昏睡のサインを拾う、寒さと感染と薬から守る、むくみと体重を数字で追う、気持ちと暮らしを支えるの5点を示している
■ 看護のポイント
薬をやめさせない(最優先)
症状が落ち着くと「治った」と感じてやめてしまう方がいる。足りないぶんを補う薬なので、やめれば元に戻る。その先にあるのが粘液水腫性昏睡(死亡率は約30%と報告されている)。「なぜ続けるのか」を理由として伝える
粘液水腫性昏睡のサインを拾う(★ふつうの急変と逆向き★)
体温が下がる・脈が遅い・血圧が低い・呼吸が浅く遅い・反応が鈍い。熱が出ないので感染を見落としやすい。★「今日はなんだかぼんやりしている」から始まることがある。高齢の方では「年のせい」と受け取られがち
寒さと感染から守る
寒冷への曝露と感染症は、粘液水腫性昏睡の誘因。冬の室温、夜間の冷え込み、寝具を整える。手洗い・含嗽・口腔ケア。もともと熱を作れない体に、寒さと感染が重なることが危ない
中枢を抑える薬に注意する
睡眠薬など中枢抑制作用のある薬は、誘因に挙がっている。すでに落ちている呼吸中枢をさらに抑える。他科からの処方や市販薬も含めて把握する
むくみは「押してへこむか」まで見る
橋本病のむくみは、押してもへこみにくい(非圧痕性)。「むくみあり」で終わらせず、性状まで記録する。急に体重が増えたときは、脂肪ではなく水がたまっているサインかもしれない
数字で追う
だるい・むくむ・体重が増えるは、橋本病そのものの症状とも心不全の症状とも重なる。訴えでは見分けられないので、脈拍・血圧・体重・むくみの範囲を日ごとに比べる
体重増加を責めない
患者さんは自分の責任だと感じている。「食べすぎではありません」「ホルモンが足りないと、じっとしていても使うエネルギーが減るんです」と伝える。治療で代謝が戻れば落ち着いてくる見通しもあわせて話す
声・表情・話し方の変化を拾う
嗄声、低い声、表情の変化が少ない(無関心様表情)、話す速度が遅い(言語緩慢)。本人は気づいていないことが多く、かぜや性格や年齢のせいにされやすい。甲状腺と結びつけて考える
ヨウ素は「禁止」と言わない
昆布を毎日たくさんとるのは避ける、で十分。のり・わかめはふつうに食べてよい。食べられるものを増やす言い方をする
女性のライフステージに寄り添う
30〜40代の女性に多い病気。妊娠・出産と重なる。妊娠すると必要量が約1.3〜1.5倍に増えるので、妊娠がわかったらすぐ主治医に相談してもらう。産後は約6割が甲状腺の変化を合併するとされ、育児の疲れと区別しにくい
転倒と便秘に気を配る
筋力低下、動作の遅さ、眠気で転倒しやすい。腸の動きが落ちて便秘にもなりやすい。水分・食物繊維・活動を、体調に合わせて整える

橋本病の看護でいちばん大事なのは、「ゆっくりになっていく変化」に気づくことです。

急に起こることではないので、本人も家族も、まわりも、なかなか気づきません。「最近、疲れやすいね」「太ったね」「声が低くなったね」「反応が遅くなったね」——どれも、年齢や性格や気のせいで説明できてしまいます。

そして、いちばん危ない場面も静かです。熱は出ない。脈は速くならない。ただ、なんとなくぼんやりしている。

派手なサインが出ないからこそ、いつもの様子を知っている人にしか気づけません。それができるのは、毎日そばにいる看護師です。

まとめ

橋本病は症状の数が多くて、最初は覚えきれないように見えます。でも、たどっていくと全部つながります。丸暗記ではなく、矢印で理解してみてください。

① まず、病名の意味を取り違えない
橋本病=甲状腺機能低下症、ではありません。
免疫が甲状腺を攻撃慢性の炎症が続く甲状腺の組織が壊れていく
これが橋本病。ホルモンが足りなくなるのは、その結果として起こることがあるだけです。
実際、機能低下になるのは4〜5人に1人未満とされています。
② 症状は、2つの流れしかない
流れA:甲状腺そのものの変化
リンパ球が浸潤 → 炎症 → 血管がゆるむ → 水がたまる → びまん性甲状腺腫大(★機能が正常でも起こる★)
流れB:ホルモン不足による変化
全身の基礎代謝が下がる。ここから、ほとんどの症状が枝分かれする
③ 「代謝が下がる」を当てはめるだけで読める
熱を作れない → 低体温・寒がり / エネルギーを使わない → 体重増加
腸が動かない → 便秘 / 脳がはたらかない → 眠気・思考力低下
心臓がゆっくり → 徐脈・低血圧
④ ただし、むくみだけは別のしくみ
ムコ多糖類の分解が低下皮下にたまる水を引き寄せる
だから押してもへこまない(非圧痕性)。これを粘液水腫といいます。
心不全や腎不全のむくみ(押すとへこむ)と、指1本で見分けられます。
⑤ いちばん怖いのは、静かに来る
粘液水腫性昏睡。重度のホルモン不足に、感染・寒さ・睡眠薬などが重なって起こります。
呼吸が落ちる循環が落ちる体温が落ちる意識レベル低下
熱は出ず、脈は遅く、血圧は低い。ふつうの急変と逆向きのサインです。
★いちばんの予防は、薬を飲みつづけること

覚えるコツは、バセドウ病と対にして覚えることです。

■ 2つの甲状腺疾患を、対で覚える
しくみ
バセドウ病=抗体が刺激する / 橋本病=リンパ球が壊す
ホルモン
バセドウ病=増える / 橋本病=足りなくなることがある
全身
バセドウ病=アクセルが踏みっぱなし / 橋本病=全体がゆっくりになる
体重・体温・脈
バセドウ病=減る・暑がる・速い / 橋本病=増える・寒がる・遅い
命に関わる合併症
バセドウ病=甲状腺クリーゼ(高熱・頻脈・意識障害)
橋本病=粘液水腫性昏睡(低体温・徐脈・意識障害)
共通していること
★どちらも、薬の自己中断が引き金になる

正反対の病気なのに、看護のいちばんの仕事は同じです。薬を続けてもらうこと。ここが、2本を並べて読むといちばん腑に落ちるところだと思います。

🔗 あわせて読むと理解が深まります

バセドウ病の関連図をイラストで解説|動悸・眼球突出はなぜ起こる?
この記事と正反対の型で書いています。2本セットで読むと、甲状腺の疾患がまとめて整理できます。

橋本病は、成人女性の10人に1人という、とても身近な病気です。実習で受け持つ患者さんの既往に入っていることも、きっとあります。

そのとき、「橋本病=甲状腺機能低下症」と決めつけずに、いまどの段階にいるのかを確かめられるか。そしてゆっくりになっていく変化に気づけるか。そこがこの疾患を学ぶ価値だと思います。

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