腹部大動脈瘤の関連図をイラストで解説|拍動感・間欠性跛行はなぜ起こる?
看護学生のみなさんにお知らせです!
このたび、「らくらく関連図」アプリに腹部大動脈瘤の関連図を追加しました。
腹部大動脈瘤は、ほかの疾患とはちょっと違う顔をしています。ほとんどの場合、症状がありません。
国立循環器病研究センターも「自覚症状がないまま大きくなる場合がほとんど」としていて、多くはほかの病気で受けた検査で、偶然見つかります。
では、何を見て判断するのか。答えはサイズです。この疾患は、症状ではなく「何ミリか」で語られます。
ただし——例外がひとつあります。症状が出たときは、サイズに関係なく話が変わります。そこがこの記事のいちばん大事なところです。
この記事では、関連図の流れにそって原因・症状・合併症を解説していきます。「ふだんはサイズで見る。でも症状が出たら急ぐ」という視点で読んでみてください。
同じ大動脈瘤でも、できる場所が違うと症状がまったく変わります。胸部大動脈瘤の関連図の記事もあわせてどうぞ。胸部は、まわりに反回神経や食道など大事な構造が詰まっているので、嗄声や嚥下困難という形で気づかれます。それに対して腹部は、まわりが空いているぶん大きくなるまで気づかれません。2本セットで読むと「症状は、まわりに何があるかで決まる」ことが腑に落ちます。
腹部大動脈瘤とはどんな病気?

腹部大動脈瘤は、お腹を通る大動脈の壁が弱くなり、血管がこぶのようにふくらむ疾患です。多くは腎動脈より下の腹部大動脈に発生します。
まず、「どこからが瘤なのか」を押さえましょう。ここは数字で決まっています。
つまり腹部大動脈は、ふだん20mmしかありません。それが30mmを超えたら「瘤」ということです。1cm太くなっただけで病名がつく——そう考えると、この疾患の繊細さが見えてきます。
そして、この疾患のいちばんの特徴。
症状が出ないまま、大きくなります。国立循環器病研究センターは「自覚症状がないまま大きくなる場合がほとんど」とし、「他の病気で腹部の超音波検査やCT検査を受けた時に、偶然、発見されることがほとんど」と説明しています。
では、破裂するかどうかは何で決まるのか。ここが、この疾患を理解する核心です。
日本循環器学会のガイドラインには、瘤の太さごとの「1年あたりの破裂率」が表として載っています。
| 瘤の最大短径 | 推定される年間の破裂率 |
|---|---|
| 40mm未満 | 0% |
| 40〜50mm未満 | 0.5〜5% |
| 50〜60mm未満 | 3〜15% |
| 60〜70mm未満 | 10〜20% |
| 70〜80mm未満 | 20〜40% |
| 80mm以上 | 30〜50% |
この表を、じっくり見てください。40mm未満なら破裂率は0%。ところが80mmを超えると、1年のうちに30〜50%が破裂します。
腹部大動脈瘤が「サイズで語られる病気」なのは、これが理由です。症状の有無ではなく、何ミリかで危険度が決まる。だから治療方針も、検査の間隔も、全部サイズで決まります。
そしてもうひとつ、絶対に押さえてほしいこと。ガイドラインの手術適応には、こう書かれています。
「有症状の症例ではすみやかに侵襲的治療を行う」(推奨クラスI)
つまり——ふだんはサイズで判断するけれど、症状が出たら、サイズに関係なく急ぐということです。症状が出るということは、それだけ瘤が大きくなったか、破裂が迫っているか、血栓を飛ばしているか、のどれかだからです。
胸部にできた場合は、事情がまったく違います。胸のなかは反回神経・食道・気管・上大静脈と、大事な構造がぎっしり詰まっているため、瘤が小さいうちから嗄声(声のかすれ)や嚥下困難という形で気づかれることがあります。くわしくは胸部大動脈瘤の関連図の記事をご覧ください。
正常な大動脈と、瘤ができるまで

関連図に入る前に、血管の壁のつくりを確認しておきます。ここを押さえると、原因も合併症も一気につながります。
大動脈の壁は、3つの層でできています。
この中で、主役は中膜です。
大動脈には、心臓から送り出された血液がいちばん強い圧力でぶつかります。それでも破れないのは、中膜の弾性線維がゴムのように伸び縮みして、圧力を受け止めているからです。
腹部大動脈瘤では、ここが壊れます。
関連図の言葉で言うと、こうなります。
中膜の弾性線維・平滑筋細胞が障害→大動脈壁の強度低下→大動脈壁が脆弱化→血圧によって大動脈壁が徐々に外側へ押し広げられる→大動脈径の進行性拡大
ここで、この疾患のいちばん残酷な性質が出てきます。
広がった血管は、元に戻りません。中膜の弾性線維は、一度壊れると再生しないからです。だから腹部大動脈瘤は「治す」のではなく、「これ以上大きくしない」か「取り替える」しかありません。
しかも、悪いことにふくらむほど、ふくらみやすくなります。風船と同じで、直径が大きくなるほど壁にかかる張力が強くなるからです。破裂率の表が、40mm未満で0%なのに80mm以上で30〜50%と跳ね上がるのは、これが理由です。
腹部大動脈瘤の原因の関連図

関連図には入口がいくつも描かれていますが、どれも同じ1点に集まります。
それが「中膜の弾性線維・平滑筋細胞が障害される」という一歩です。ここを越えると、あとは1本道になります。
大事なのは、「押し広げているのは血圧」だということです。壁が弱くなっただけでは瘤になりません。そこに毎日、心臓から送り出される圧力がかかりつづけるから、少しずつ広がります。
だから治療で血圧を下げることに意味があるのです。壁は元に戻せなくても、押す力は減らせるからです。
では、3つの入口をそれぞれ見ていきます。
原因① 動脈硬化

関連図でいちばん長い流れが、この動脈硬化のルートです。腹部大動脈瘤の背景として、もっとも代表的な原因です。
⑤の蛋白質分解酵素が、この疾患の要です。
免疫細胞は、異物を片づけるために「タンパク質を分解する酵素」を出します。ところが——中膜の弾性線維も、タンパク質でできています。
異物を溶かすつもりの酵素が、血管の骨組みまで溶かしてしまう。これが、動脈硬化が瘤につながるしくみです。
ここで気づいてほしいことがあります。動脈硬化というと「血管が詰まる」イメージがありませんか。心筋梗塞や脳梗塞は、たしかにそうです。
でも大動脈瘤では逆に、広がります。同じ動脈硬化なのに、細い血管では詰まり、太い血管ではふくらむ——ここは国試でも狙われるところです。
原因② 喫煙

関連図では喫煙 → タバコ煙中の有害物質への曝露 → 酸化ストレス増大 → 炎症細胞が大動脈壁へ集積と、動脈硬化のルートに合流します。
ここは、数字で見ると一気に説得力が出ます。日本循環器学会のガイドラインには、こう書かれています。
「最も重要な危険因子」——ガイドラインがここまで言い切る因子は、そう多くありません。
しかも注目すべきは、「瘤ができやすい」だけでなく「瘤が大きくなりやすい」「破裂しやすい」の3つ全部に効いていることです。
だからガイドラインは、「小径大動脈瘤においても瘤拡大の抑制の観点から、禁煙指導には意義がある」としています。
これは看護として、とても大きな意味を持ちます。
まだ小さい瘤で「経過観察」になった患者さんは、「何もしなくていい」と受け取りがちです。でも実際には、禁煙という、はっきり効果のわかっている行動が残されています。
「様子を見ましょう」ではなく「タバコをやめることが、いちばんの治療です」と伝えられるか。ここが、この疾患の看護の腕の見せどころです。
原因③ 高血圧

3つめは高血圧です。関連図では高血圧 → 持続的な血圧上昇 → 大動脈壁に高圧力負荷が持続 → 血管内皮細胞障害 → 中膜の弾性線維・平滑筋細胞が障害という流れになっています。
ここで、高血圧だけが持っている特別な性質に気づいてください。
高血圧は、壁を弱くする側と、弱った壁を押し広げる側の、両方にいます。関連図をよく見ると、高血圧から出た矢印と、共通ルートの「血圧によって押し広げられる」が、どちらも同じ力を指していることがわかります。
だからこそ、血圧管理が治療の柱のひとつになります。壊れた中膜は戻せませんが、押す力を弱めれば、広がる速さを遅くできるからです。
なお、関連図には加齢変化という入口も描かれています。大動脈壁の修復力低下と、長年の負荷の蓄積から、同じく中膜の変性につながります。「65歳以上に多い」のは、これが背景です。
腹部大動脈瘤の症状の関連図

ここで、いちばん大事なことをもう一度お伝えします。
腹部大動脈瘤は、ふつう症状がありません。これから3つの症状を解説しますが、それらは「瘤がかなり大きくなった」か「血栓を飛ばしている」ことのサインです。
そして関連図を見ると、症状の出かたは2つの系統しかありません。
この2つを分けて覚えると、症状の名前を1つずつ暗記する必要がなくなります。
それでは、腹部の拍動感・腹痛・間欠性跛行の3つを詳しく見ていきます。
胸部にできた場合、押されるのは反回神経・食道・気管・上大静脈です。だから症状は嗄声・嚥下困難・咳嗽・呼吸困難・顔面浮腫になります。「どこを押したかで症状が決まる」という読み方は、まったく同じです。胸部大動脈瘤の関連図の記事と読み比べてみてください。
症状① 腹部の拍動感

腹部大動脈瘤で、患者さん自身が気づきやすい数少ない症状です。
関連図の流れはこうです。
腹部大動脈が拡張→腹部大動脈径が拡大→大動脈の拍動が周囲組織へ伝わりやすくなる→腹壁へ拍動が伝達→腹部に拍動を感じる
ここで、「なぜ太くなると拍動が伝わるのか」を考えてみてください。
大動脈はもともと拍動しています。心臓が打つたびに、ふくらんで戻る。でもふだんは細い(約20mm)ので、お腹の奥にあって、まわりの臓器や脂肪にさえぎられて感じません。
ところが瘤ができて太くなると、拍動する面積そのものが大きくなり、腹壁にも近づきます。だからお腹の上から「ドクンドクン」と感じられるようになるのです。
つまり拍動感は「瘤がそれだけ大きくなった」というサインです。
患者さんの訴えとしては、「お腹に心臓があるみたい」「寝ているとお腹がドクンドクンする」「お腹にかたまりがあって、それが動いている気がする」という形で出てきます。
そして、ここが大事です。拍動感があるということは、それだけの大きさがあるということ。ガイドラインの「有症状の症例ではすみやかに侵襲的治療を行う」に当てはまる可能性があります。
症状② 腹痛

2つめは腹痛です。ただしこの症状は、扱いに注意が必要です。
まず関連図の流れを見ましょう。
腹部大動脈が拡張→腹部大動脈径が拡大→後腹膜・腰椎周囲組織を圧迫→内臓知覚神経が刺激→痛覚刺激が中枢神経へ伝達→腹痛
同じルートから、背部痛と腰痛も出ます。押している場所が後腹膜や腰椎のまわりなので、痛みがお腹側に出るか、背中側に出るか、腰に出るかは、瘤の位置と向きによって変わります。
ここで、この記事でいちばん覚えてほしいことをお伝えします。
無症状の病気に症状が出たということは、それ自体が異常事態です。
ふつうの疾患なら「痛みが出た=症状が現れた」ですが、この疾患では「痛みが出た=段階が変わった」と読みます。ここが、ほかの疾患と決定的に違うところです。
実習では、痛みの「場所」「強さ」「いつからか」「これまでと違うか」を必ず確認してください。とくに「今までなかった痛みが、急に出た」は、そのまま報告する内容です。
症状③ 間欠性跛行

3つめは、系統B(血栓が飛ぶルート)から出る症状です。
まず、なぜ瘤の中で血栓ができるのかから見ていきましょう。
①がポイントです。川と同じで、まっすぐな水路では水はスムーズに流れますが、途中で急に幅が広くなると、渦ができて流れがよどみます。瘤の中で起きているのは、まさにこれです。
そして、よどんだ血液は固まります。瘤は「大きくなって破れる」だけでなく、「血栓工場」にもなっているのです。
飛んだ血栓が下肢の動脈に詰まると、こうなります。
「歩くと痛い、休むと治まる、また歩ける」——この3拍子が間欠性跛行です。
なぜ休むと治まるのか。血流が足りないのではなく、「動いたときに必要な量」に足りないからです。じっとしていれば筋肉が使う酸素は少なくてすむので、細くなった血管でも間に合います。だから「安静時は平気」なのです。
ここで、実習で使える視点をひとつ。間欠性跛行は「何メートル歩いたら痛くなるか」で重症度がわかります。「以前は500m歩けたのに、今は100mで休む」なら、進行しているということです。
そして忘れてはいけないのが、血栓はもっと急に、もっと激しく詰まることもあるということです。合併症②でくわしく見ていきます。
腹部大動脈瘤の合併症の関連図

合併症は大動脈破裂・血栓塞栓症・大動脈解離の3つを取り上げます。
読むときの視点を先にお伝えします。3つとも、出発点は同じ「大動脈壁が脆弱化」です。そこから、壁がどう壊れるかで結果が変わります。
「破けるのか」「裂けるのか」「飛ぶのか」。この3つで整理すると、名前を混同しなくなります。
合併症① 大動脈破裂

この疾患で、いちばん警戒すべき合併症です。ガイドラインも「大動脈瘤の最も重要な臨床的問題は破裂である」と明記しています。
関連図の流れを追ってみましょう。
そして、破れたあとに何が起こるか。ここからは分単位の話になります。
血液が血管外へ大量に漏出→循環血液量が急減→静脈還流量低下→心拍出量低下→出血性ショック
同時に、行き先を失った血液が全身から足りなくなります。
ここで、看護として絶対に知っておいてほしい一文があります。日本循環器学会のガイドラインには、こう書かれています。
3つ揃うのは、半分だけ。つまり半分の患者さんは、3徴のうち1つか2つしか出ていません。
だから「3徴が揃っていないから違う」と考えてはいけないのです。ガイドライン自身が「揃わなくても疑え」と書いています。
死亡率も見ておきましょう。ガイドラインによれば、循環動態が不安定な腹部大動脈瘤破裂の死亡率は、ステントグラフト内挿術で37%、外科手術で62%と報告されています。
治療してもなお、これだけの数字です。だからこの疾患は「破裂する前に見つけて、破裂する前に治す」——それしかありません。破裂率の表が、あれほど細かく径ごとに分かれているのは、このためです。
合併症② 血栓塞栓症

症状③(間欠性跛行)と同じ幹から分かれる、もっと急な形です。
出発点は同じ。瘤内の血流停滞・乱流 → 血液がうっ滞 → 血小板凝集 → 凝固系が活性化 → 壁在血栓が形成 → 血栓の一部が遊離 → 血栓が末梢へ移動。
ここから、どこに詰まったかで症状が変わります。
ここで、ゆっくり詰まる場合と急に詰まる場合の違いを押さえてください。
「休むと治まるか」が、ゆっくりと急を分ける目印です。
とくに注意したいのが上腸間膜動脈のルートです。腸に血液を送る動脈が詰まると、突然の激しい腹痛が出ます。腹部大動脈瘤の患者さんの激しい腹痛は、破裂かもしれないし、腸への血栓かもしれない——どちらにせよ急ぎます。
実習では、足背動脈の触知が意味を持ちます。検査の項目にも「足背動脈などの触診:下肢への血流障害の有無を確認する」と入っています。左右差、冷たさ、色、しびれをあわせて見てください。
合併症③ 大動脈解離

3つめは大動脈解離です。名前が似ているので、破裂との違いをはっきりさせておきましょう。
関連図の流れはこうです。
破裂は「壁が全部やぶれて、血液が外へ出る」。解離は「壁の中に、血液が入り込む」。
イメージとしては、ホースの内側の膜が破れて、ホースの壁の中に水がしみこみ、内側と外側の層をはがしていく感じです。血液は、まだ体の中を流れています。だから解離が起きても、すぐに大出血にはなりません。
でも、危険であることは変わりません。裂けた部分から、そのまま外膜まで破れれば破裂になります。また、裂けた壁が枝分かれの血管をふさぐと、その先の臓器が虚血になります。
どちらも、行き着く先は同じ「破裂」です。だから両方とも、血圧のコントロールが決定的に重要になります。裂けかけている壁に、これ以上圧力をかけない——それが治療の基本です。
腹部大動脈瘤の検査

この疾患の検査は、目的がはっきりしています。「あるかどうか」ではなく「何ミリか」を知るためです。破裂率がサイズで決まる以上、測ることが、そのまま治療方針を決めることになります。
そして、この疾患ならではの「検査の続け方」があります。ガイドラインは、瘤の太さごとに、次にいつ測るかを決めています。
| いまの瘤径 | 次に測るまでの間隔 |
|---|---|
| 30〜40mm未満 | 1〜2年ごと |
| 40〜50mm未満 | 6ヵ月〜1年ごと |
| 50〜55mm未満 | 3〜6ヵ月ごと |
大きくなるほど、測る間隔が短くなります。40mm未満なら1〜2年に1回でよかったものが、50mmを超えると3〜6ヵ月ごと。破裂率の表と見比べると、その理由がはっきりわかります。
ここが看護として大事なところです。「経過観察」は「何もしない」ではありません。決められた間隔で測りつづけること、それ自体が治療です。
症状がないので、患者さんは受診をやめてしまいがちです。「調子がいいから、もう行かなくていい」と考えてしまう。でもこの疾患は、調子がいいまま破裂します。
腹部大動脈瘤の治療

治療は大きく2つに分かれます。「待つ」か「取り替える」かです。
では、いつ「待つ」から「取り替える」に切り替わるのか。ここもガイドラインが数字で決めています。
この表から読み取ってほしいことが2つあります。
ひとつめ。「55mm」という数字には根拠があります。ガイドラインによれば、55mm未満で手術しても、55mmになってから手術しても、生命予後は変わらないことが複数の研究で示されています。早く手術すればいいわけではない——手術そのものにも危険があるからです。
ふたつめ。症状と、急速拡大は、サイズを飛び越えます。50mmでも40mmでも、症状があれば「すみやかに」。半年で5mm以上大きくなれば、それも手術を考える理由になります。
だから「何ミリか」だけでなく「変わったか」も見ています。
最後に、患者さんへの説明で効く視点をひとつ。
「経過観察」と言われた患者さんは、しばしば見放されたように感じます。でも実際は違います。手術しないほうが安全な段階だから、しないだけです。
そしてそのあいだにできることが、はっきりあります。血圧を下げること、タバコをやめること、決められた間隔で測りに来ること。この3つは、患者さん自身にしかできない治療です。
看護のポイント

腹部大動脈瘤の看護でいちばん大事なのは、「症状がないこと」を、安心の材料にしないことです。
ほとんどの疾患では、症状が軽ければ状態も軽い。でもこの疾患は違います。80mmまで大きくなっても、破裂するまでは無症状のことがあります。そして破裂すれば、治療しても37〜62%が亡くなります。
だからこそ、血圧を測ること、タバコの話をすること、次の受診日を確認すること——どれも地味な関わりですが、その積み重ねが、いちばん怖い結末を遠ざけています。
まとめ
腹部大動脈瘤は、ほかの疾患と読み方が違います。ここまでの流れを、5つに整理します。
破裂率は径で決まります。40mm未満は0%、80mm以上は年に30〜50%。
だから検査も治療も、全部「何ミリか」で決まります。
押し広げているのは血圧です。だから血圧を下げることに意味があります。
「有症状の症例ではすみやかに侵襲的治療を行う」
無症状の病気に症状が出たということは、それ自体が異常事態です。
★破裂の3徴(突然の腹痛・背部痛/血圧低下/腹部拍動性腫瘤)は、3つ揃うのは約50%。揃わなくても疑う★
覚えるコツは、「ふだんはサイズで見る。でも症状が出たら急ぐ」という一文です。
この疾患のいちばん怖いところは、調子がいいまま進行することです。患者さんは元気で、痛くもなく、ふつうに生活しています。そのあいだに、瘤は静かに大きくなっています。
だから「症状がない」を、安心の材料にしない。——ここが、この疾患を学ぶ価値だと思います。
胸部大動脈瘤の関連図をイラストで解説|嗄声・嚥下困難はなぜ起こる?
同じ大動脈瘤でも、できる場所が違うと症状が変わります。胸部は反回神経・食道・気管を押すので嗄声や嚥下困難で気づかれ、腹部はまわりが空いているので、大きくなるまで気づかれません。
「症状は、まわりに何があるかで決まる」——2本セットで読むと、ここが腑に落ちます。
患者さんが何気なく言った「お腹がドクンドクンするんです」「歩くと足が痛くて、休むと治るんです」という一言。それを、いま体の中で起きていることと結びつけられるか——そこが、この疾患を学ぶ意味だと思います。
追加した関連図が、みなさんの実習記録づくりの助けになればうれしいです。「この疾患も追加してほしい」というリクエストは、公式LINEやお問い合わせからいつでもお待ちしています!
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■ 出典・参考資料
- 日本循環器学会ほか『2020年改訂版 大動脈瘤・大動脈解離診療ガイドライン』 https://www.j-circ.or.jp/cms/wp-content/uploads/2020/07/JCS2020_Ogino.pdf
- 国立循環器病研究センター「大動脈瘤と大動脈解離」 https://www.ncvc.go.jp/hospital/pub/knowledge/disease/aortic-aneurysm_dissection/
- 国立循環器病研究センター 心臓血管外科部門「腹部大動脈瘤」 https://www.ncvc.go.jp/hospital/section/cvs/vascular/pro01-3/
- 関連図の内容は「らくらく関連図」アプリ収録の腹部大動脈瘤の関連図に基づいています