看護学生のみなさんにお知らせです!

このたび、「らくらく関連図」アプリに腹部大動脈瘤の関連図を追加しました。

腹部大動脈瘤は、ほかの疾患とはちょっと違う顔をしています。ほとんどの場合、症状がありません。

国立循環器病研究センターも「自覚症状がないまま大きくなる場合がほとんど」としていて、多くはほかの病気で受けた検査で、偶然見つかります。

では、何を見て判断するのか。答えはサイズです。この疾患は、症状ではなく「何ミリか」で語られます。

ただし——例外がひとつあります。症状が出たときは、サイズに関係なく話が変わります。そこがこの記事のいちばん大事なところです。

この記事では、関連図の流れにそって原因・症状・合併症を解説していきます。「ふだんはサイズで見る。でも症状が出たら急ぐ」という視点で読んでみてください。

🔗 あわせて読むと理解が深まります

同じ大動脈瘤でも、できる場所が違うと症状がまったく変わります。胸部大動脈瘤の関連図の記事もあわせてどうぞ。胸部は、まわりに反回神経や食道など大事な構造が詰まっているので、嗄声や嚥下困難という形で気づかれます。それに対して腹部は、まわりが空いているぶん大きくなるまで気づかれません。2本セットで読むと「症状は、まわりに何があるかで決まる」ことが腑に落ちます。

腹部大動脈瘤とはどんな病気?

腹部大動脈瘤の全体像の図解。壁が弱くなり血圧に押し広げられて、症状がないまま大きくなる流れと、瘤の最大短径ごとの1年あたりの破裂率(40mm未満は0%、80mm以上は30〜50%)を表で示し、症状が出たらサイズに関係なく急ぐことを伝えている

腹部大動脈瘤は、お腹を通る大動脈の壁が弱くなり、血管がこぶのようにふくらむ疾患です。多くは腎動脈より下の腹部大動脈に発生します。

まず、「どこからが瘤なのか」を押さえましょう。ここは数字で決まっています。

■ 大動脈瘤の定義(出典:日本循環器学会『2020年改訂版 大動脈瘤・大動脈解離診療ガイドライン』)
大動脈の正常な太さ
胸部で30mm、腹部で20mmとされている
瘤と呼ぶ基準
直径が正常径の1.5倍を超えて拡大した場合(=胸部で45mm、腹部で30mm)。または、壁の一部が局所的にこぶ状に突出した場合
形による分類
全体がふくらむ紡錘状大動脈瘤と、一部がこぶ状に飛び出す嚢状大動脈瘤がある

つまり腹部大動脈は、ふだん20mmしかありません。それが30mmを超えたら「瘤」ということです。1cm太くなっただけで病名がつく——そう考えると、この疾患の繊細さが見えてきます。

そして、この疾患のいちばんの特徴。

症状が出ないまま、大きくなります。国立循環器病研究センターは「自覚症状がないまま大きくなる場合がほとんど」とし、「他の病気で腹部の超音波検査やCT検査を受けた時に、偶然、発見されることがほとんど」と説明しています。

■ 数字で見る腹部大動脈瘤
好発
主に65歳以上の高齢者女性より男性に多い
喫煙との関係
日本循環器学会のガイドラインによれば、65〜75歳男性の腹部大動脈瘤の有病率は、喫煙歴があると6〜7%、喫煙歴がないと2%。★3倍以上の差★
いちばん怖いこと
破裂。ガイドラインは「大動脈瘤の最も重要な臨床的問題は破裂である」と書いている

では、破裂するかどうかは何で決まるのか。ここが、この疾患を理解する核心です。

日本循環器学会のガイドラインには、瘤の太さごとの「1年あたりの破裂率」が表として載っています。

瘤の最大短径 推定される年間の破裂率
40mm未満 0%
40〜50mm未満 0.5〜5%
50〜60mm未満 3〜15%
60〜70mm未満 10〜20%
70〜80mm未満 20〜40%
80mm以上 30〜50%
出典:日本循環器学会『2020年改訂版 大動脈瘤・大動脈解離診療ガイドライン』表23「腹部大動脈瘤の瘤径別推定年間破裂率」

この表を、じっくり見てください。40mm未満なら破裂率は0%。ところが80mmを超えると、1年のうちに30〜50%が破裂します。

腹部大動脈瘤が「サイズで語られる病気」なのは、これが理由です。症状の有無ではなく、何ミリかで危険度が決まる。だから治療方針も、検査の間隔も、全部サイズで決まります。

そしてもうひとつ、絶対に押さえてほしいこと。ガイドラインの手術適応には、こう書かれています。

「有症状の症例ではすみやかに侵襲的治療を行う」(推奨クラスI)

つまり——ふだんはサイズで判断するけれど、症状が出たら、サイズに関係なく急ぐということです。症状が出るということは、それだけ瘤が大きくなったか、破裂が迫っているか、血栓を飛ばしているか、のどれかだからです。

🔗 あわせて読むと理解が深まります

胸部にできた場合は、事情がまったく違います。胸のなかは反回神経・食道・気管・上大静脈と、大事な構造がぎっしり詰まっているため、瘤が小さいうちから嗄声(声のかすれ)や嚥下困難という形で気づかれることがあります。くわしくは胸部大動脈瘤の関連図の記事をご覧ください。

正常な大動脈と、瘤ができるまで

正常な大動脈と腹部大動脈瘤の大動脈を比べた図解。内膜・中膜・外膜の3層構造を示し、中膜の弾性線維がしっかりしていれば血圧がかかっても伸びて戻るが、壊れると伸びても戻らず血圧に押されて外側へ広がっていくことを示している

関連図に入る前に、血管の壁のつくりを確認しておきます。ここを押さえると、原因も合併症も一気につながります。

大動脈の壁は、3つの層でできています。

■ 大動脈の壁は3層構造
内膜(いちばん内側)
血液に接する、つるつるした薄い層。表面を血管内皮細胞がおおっている
中膜(まんなか)
弾性線維と平滑筋細胞でできた、いちばん分厚い層。★血管の強さと弾力は、ここが担っている
外膜(いちばん外側)
結合組織でできた、外から包む層

この中で、主役は中膜です。

大動脈には、心臓から送り出された血液がいちばん強い圧力でぶつかります。それでも破れないのは、中膜の弾性線維がゴムのように伸び縮みして、圧力を受け止めているからです。

腹部大動脈瘤では、ここが壊れます。

■ 正常な大動脈と、腹部大動脈瘤の大動脈
正常な大動脈
中膜の弾性線維がしっかりしていて、血圧がかかっても伸びて戻る。だから太さは変わらない(腹部で約20mm)
腹部大動脈瘤の大動脈
中膜の弾性線維と平滑筋細胞が壊れている。伸びても戻らないので、血圧に押されて、じわじわ外側へ広がっていく

関連図の言葉で言うと、こうなります。

中膜の弾性線維・平滑筋細胞が障害大動脈壁の強度低下大動脈壁が脆弱化血圧によって大動脈壁が徐々に外側へ押し広げられる大動脈径の進行性拡大

ここで、この疾患のいちばん残酷な性質が出てきます。

広がった血管は、元に戻りません。中膜の弾性線維は、一度壊れると再生しないからです。だから腹部大動脈瘤は「治す」のではなく、「これ以上大きくしない」か「取り替える」しかありません。

しかも、悪いことにふくらむほど、ふくらみやすくなります。風船と同じで、直径が大きくなるほど壁にかかる張力が強くなるからです。破裂率の表が、40mm未満で0%なのに80mm以上で30〜50%と跳ね上がるのは、これが理由です。

腹部大動脈瘤の原因の関連図

腹部大動脈瘤の原因の関連図。喫煙・動脈硬化・高血圧などの入口から、炎症細胞が大動脈壁へ集積し蛋白質分解酵素が放出され、中膜の弾性線維・平滑筋細胞が障害されて大動脈壁が脆弱化し、血圧に押し広げられて腹部大動脈瘤に至るまでを矢印でつないだ図
らくらく関連図アプリより一部抜粋

関連図には入口がいくつも描かれていますが、どれも同じ1点に集まります。

それが「中膜の弾性線維・平滑筋細胞が障害される」という一歩です。ここを越えると、あとは1本道になります。

■ 中膜が壊れたあとの共通ルート(ここは全部同じ)
中膜の弾性線維・平滑筋細胞が障害大動脈壁の強度低下
弱くなる
大動脈壁が脆弱化する
押し広げられる
血圧によって、大動脈壁が徐々に外側へ押し広げられる
結果
大動脈径の進行性拡大 → 腹部大動脈瘤

大事なのは、「押し広げているのは血圧」だということです。壁が弱くなっただけでは瘤になりません。そこに毎日、心臓から送り出される圧力がかかりつづけるから、少しずつ広がります。

だから治療で血圧を下げることに意味があるのです。壁は元に戻せなくても、押す力は減らせるからです。

では、3つの入口をそれぞれ見ていきます。

原因① 動脈硬化

動脈硬化が血管を弱くするしくみの図解。血管内皮が傷み、低比重リポ蛋白が内膜へ侵入して酸化し、炎症細胞が集まって蛋白質分解酵素を放出し、中膜の弾性線維が障害される流れを示している

関連図でいちばん長い流れが、この動脈硬化のルートです。腹部大動脈瘤の背景として、もっとも代表的な原因です。

■ 動脈硬化から中膜が壊れるまで
① 内皮が傷む
血管内皮細胞の機能障害が起こる。血管のいちばん内側の、つるつるした面が荒れる
② 入り込む
低比重リポ蛋白(LDL)が大動脈内膜へ侵入する。荒れた面から、壁の中へ潜り込む
③ 酸化する
低比重リポ蛋白が酸化する。壁の中で変質し、体にとって「異物」になる
④ 免疫が集まる
炎症細胞が大動脈壁へ集積し、活性化する
⑤ 壁を溶かす酵素が出る
蛋白質分解酵素が放出される。★ここが決定的★
⑥ 中膜が壊れる
中膜の弾性線維・平滑筋細胞が障害される

⑤の蛋白質分解酵素が、この疾患の要です。

免疫細胞は、異物を片づけるために「タンパク質を分解する酵素」を出します。ところが——中膜の弾性線維も、タンパク質でできています。

異物を溶かすつもりの酵素が、血管の骨組みまで溶かしてしまう。これが、動脈硬化が瘤につながるしくみです。

ここで気づいてほしいことがあります。動脈硬化というと「血管が詰まる」イメージがありませんか。心筋梗塞や脳梗塞は、たしかにそうです。

でも大動脈瘤では逆に、広がります。同じ動脈硬化なのに、細い血管では詰まり、太い血管ではふくらむ——ここは国試でも狙われるところです。

原因② 喫煙

喫煙と腹部大動脈瘤の関係を示した図解。タバコの有害物質への曝露から酸化ストレスが増え、炎症細胞が集まって中膜が壊れる流れと、65〜75歳男性の有病率が喫煙歴ありで6〜7%、なしで2%であることを示している

関連図では喫煙 → タバコ煙中の有害物質への曝露 → 酸化ストレス増大 → 炎症細胞が大動脈壁へ集積と、動脈硬化のルートに合流します。

ここは、数字で見ると一気に説得力が出ます。日本循環器学会のガイドラインには、こう書かれています。

■ 喫煙と腹部大動脈瘤(出典:日本循環器学会『2020年改訂版 大動脈瘤・大動脈解離診療ガイドライン』)
危険因子としての位置づけ
「胸部大動脈瘤、腹部大動脈瘤のいずれにおいても喫煙は瘤拡大と破裂の最も重要な危険因子である」
量との関係
「喫煙量に依存して大動脈瘤の発生率が上昇する」
有病率の差
65〜75歳男性の腹部大動脈瘤の有病率は、喫煙歴があると6〜7%、喫煙歴がないと2%

「最も重要な危険因子」——ガイドラインがここまで言い切る因子は、そう多くありません。

しかも注目すべきは、「瘤ができやすい」だけでなく「瘤が大きくなりやすい」「破裂しやすい」の3つ全部に効いていることです。

だからガイドラインは、「小径大動脈瘤においても瘤拡大の抑制の観点から、禁煙指導には意義がある」としています。

これは看護として、とても大きな意味を持ちます。

まだ小さい瘤で「経過観察」になった患者さんは、「何もしなくていい」と受け取りがちです。でも実際には、禁煙という、はっきり効果のわかっている行動が残されています。

「様子を見ましょう」ではなく「タバコをやめることが、いちばんの治療です」と伝えられるか。ここが、この疾患の看護の腕の見せどころです。

原因③ 高血圧

高血圧が2か所で働いていることを示した図解。血管内皮を傷つけて中膜を壊す働きと、弱った壁を外側へ押し広げる働きの両方を担っていることを示し、加齢変化の入口もあわせて示している

3つめは高血圧です。関連図では高血圧 → 持続的な血圧上昇 → 大動脈壁に高圧力負荷が持続 → 血管内皮細胞障害 → 中膜の弾性線維・平滑筋細胞が障害という流れになっています。

ここで、高血圧だけが持っている特別な性質に気づいてください。

■ 高血圧は、2か所で働いている
① 壁を壊すほう(原因として)
高い圧力が血管内皮細胞を傷つけ、そこから炎症が始まって中膜が壊れる
② 壁を押し広げるほう(進行させる力として)
共通ルートの「血圧によって大動脈壁が徐々に外側へ押し広げられる」——この「血圧」が、まさにこれ

高血圧は、壁を弱くする側と、弱った壁を押し広げる側の、両方にいます。関連図をよく見ると、高血圧から出た矢印と、共通ルートの「血圧によって押し広げられる」が、どちらも同じ力を指していることがわかります。

だからこそ、血圧管理が治療の柱のひとつになります。壊れた中膜は戻せませんが、押す力を弱めれば、広がる速さを遅くできるからです。

なお、関連図には加齢変化という入口も描かれています。大動脈壁の修復力低下と、長年の負荷の蓄積から、同じく中膜の変性につながります。「65歳以上に多い」のは、これが背景です。

腹部大動脈瘤の症状の関連図

腹部大動脈瘤の症状の関連図。腹部大動脈径が拡大して後腹膜・腰椎周囲組織を圧迫し腹痛に至る流れ、腹壁へ拍動が伝達されて腹部拍動感に至る流れ、瘤内の血栓が末梢へ飛んで間欠性跛行に至る流れを矢印でつないだ図
らくらく関連図アプリより一部抜粋

ここで、いちばん大事なことをもう一度お伝えします。

腹部大動脈瘤は、ふつう症状がありません。これから3つの症状を解説しますが、それらは「瘤がかなり大きくなった」か「血栓を飛ばしている」ことのサインです。

そして関連図を見ると、症状の出かたは2つの系統しかありません。

■ 腹部大動脈瘤の症状は、2つの系統に分かれる
系統A:大きくなって、まわりを押す
腹部大動脈が拡張 → 腹部大動脈径が拡大 → まわりの組織を圧迫する/拍動が伝わる
腹部の拍動感・腹痛・背部痛・腰痛・腹部圧迫感
系統B:瘤の中で血栓ができて、飛ぶ
瘤内の血流停滞・乱流 → 壁在血栓が形成 → 血栓の一部が遊離 → 末梢へ移動
間欠性跛行・下肢の激痛・足趾蒼白・下肢の知覚神経麻痺

この2つを分けて覚えると、症状の名前を1つずつ暗記する必要がなくなります。

■ 系統Aは「どこを押したか」で症状が決まる
腹壁のほうへ拍動が伝わる
腹部の拍動感
後腹膜・腰椎周囲組織を圧迫
腹痛・背部痛・腰痛(押した場所によって、痛む場所が変わる)
周囲組織を圧迫
腹部圧迫感
脊髄動脈・下肢動脈を圧迫
下肢の痺れ
急速に瘤が拡大
強い内臓痛 → 自律神経が反応して悪心・嘔吐

それでは、腹部の拍動感・腹痛・間欠性跛行の3つを詳しく見ていきます。

🔗 あわせて読むと理解が深まります

胸部にできた場合、押されるのは反回神経・食道・気管・上大静脈です。だから症状は嗄声・嚥下困難・咳嗽・呼吸困難・顔面浮腫になります。「どこを押したかで症状が決まる」という読み方は、まったく同じです。胸部大動脈瘤の関連図の記事と読み比べてみてください。

症状① 腹部の拍動感

腹部大動脈瘤で腹部の拍動感が起こるしくみの図解。腹部大動脈径が拡大して拍動が周囲組織へ伝わりやすくなり、腹壁まで届いて患者さんが気づく流れと、正常な太さでは感じない理由を比べて示している

腹部大動脈瘤で、患者さん自身が気づきやすい数少ない症状です。

関連図の流れはこうです。

腹部大動脈が拡張腹部大動脈径が拡大大動脈の拍動が周囲組織へ伝わりやすくなる腹壁へ拍動が伝達腹部に拍動を感じる

ここで、「なぜ太くなると拍動が伝わるのか」を考えてみてください。

大動脈はもともと拍動しています。心臓が打つたびに、ふくらんで戻る。でもふだんは細い(約20mm)ので、お腹の奥にあって、まわりの臓器や脂肪にさえぎられて感じません。

ところが瘤ができて太くなると、拍動する面積そのものが大きくなり、腹壁にも近づきます。だからお腹の上から「ドクンドクン」と感じられるようになるのです。

つまり拍動感は「瘤がそれだけ大きくなった」というサインです。

患者さんの訴えとしては、「お腹に心臓があるみたい」「寝ているとお腹がドクンドクンする」「お腹にかたまりがあって、それが動いている気がする」という形で出てきます。

■ 実習で観察するときのポイント
触れてわかる
拍動性腫瘤として触れることがある。検査の項目にも「腹部触診:拍動性腫瘤の有無を確認する」と入っている
★強く押さない★
破裂の危険があるため、腹部を強く圧迫しないこと。学生が自己判断で深く触診するのは避ける
拾いたい言葉
「お腹がドクンドクンする」は、聞き流されやすい。そのまま記録して報告する

そして、ここが大事です。拍動感があるということは、それだけの大きさがあるということ。ガイドラインの「有症状の症例ではすみやかに侵襲的治療を行う」に当てはまる可能性があります。

症状② 腹痛

腹部大動脈瘤で腹痛が出るしくみの図解。瘤が後腹膜や腰椎周囲組織を圧迫して内臓知覚神経が刺激される流れと、有症状の症例ではすみやかに侵襲的治療を行うというガイドラインの手術適応、切迫破裂について示している

2つめは腹痛です。ただしこの症状は、扱いに注意が必要です。

まず関連図の流れを見ましょう。

腹部大動脈が拡張腹部大動脈径が拡大後腹膜・腰椎周囲組織を圧迫内臓知覚神経が刺激痛覚刺激が中枢神経へ伝達腹痛

同じルートから、背部痛と腰痛も出ます。押している場所が後腹膜や腰椎のまわりなので、痛みがお腹側に出るか、背中側に出るか、腰に出るかは、瘤の位置と向きによって変わります。

ここで、この記事でいちばん覚えてほしいことをお伝えします。

■ ★腹部大動脈瘤で「痛み」が出たときは、危ないと考える★
ガイドラインの手術適応
「有症状の症例ではすみやかに侵襲的治療を行う」(推奨クラスI)。サイズに関係なく、症状があれば急ぐ
切迫破裂という状態
ガイドラインには「血液の漏出はないが痛みの位置が瘤の存在部位と一致する場合を『切迫破裂』と呼ぶ」とある。まだ破れていないが、破れかけている状態
だから
腹部大動脈瘤の患者さんが痛みを訴えたら、「よくある腹痛」として扱わない。すぐ報告する

無症状の病気に症状が出たということは、それ自体が異常事態です。

ふつうの疾患なら「痛みが出た=症状が現れた」ですが、この疾患では「痛みが出た=段階が変わった」と読みます。ここが、ほかの疾患と決定的に違うところです。

実習では、痛みの「場所」「強さ」「いつからか」「これまでと違うか」を必ず確認してください。とくに「今までなかった痛みが、急に出た」は、そのまま報告する内容です。

症状③ 間欠性跛行

腹部大動脈瘤で間欠性跛行が起こるしくみの図解。瘤内の血流が停滞・乱流になって壁在血栓ができ、その一部が末梢へ飛んで下肢の動脈を狭くする流れと、歩くと痛い・休むと治まる・また歩けるという繰り返しを示している

3つめは、系統B(血栓が飛ぶルート)から出る症状です。

まず、なぜ瘤の中で血栓ができるのかから見ていきましょう。

■ 瘤の中に血栓ができるまで
① 流れが乱れる
瘤内の血流が停滞・乱流になる。★血管が急に太くなるので、まっすぐ流れなくなる★
② 血液がよどむ
血液がうっ滞する
③ 固まりはじめる
血小板が凝集し、凝固系が活性化する
④ 壁にへばりつく
壁在血栓が形成される。瘤の内側の壁にできる血のかたまり
⑤ ちぎれて飛ぶ
血栓の一部が遊離し、末梢へ移動する

①がポイントです。川と同じで、まっすぐな水路では水はスムーズに流れますが、途中で急に幅が広くなると、渦ができて流れがよどみます。瘤の中で起きているのは、まさにこれです。

そして、よどんだ血液は固まります。瘤は「大きくなって破れる」だけでなく、「血栓工場」にもなっているのです。

飛んだ血栓が下肢の動脈に詰まると、こうなります。

■ 間欠性跛行が起こるまで
① 下肢の動脈が詰まる
下肢動脈塞栓 → 下肢動脈の狭窄・閉塞 → 下肢への血流低下
② 歩くと足りなくなる
運動時の下肢筋への酸素供給が不足下肢筋虚血
③ 痛くなる
歩行時に下肢の痛み・だるさが出現
④ 休むと治まる
休息により下肢筋の酸素需要が低下症状が軽減
⑤ また歩ける
歩行再開。そしてまた痛くなる。この繰り返しが間欠性跛行

「歩くと痛い、休むと治まる、また歩ける」——この3拍子が間欠性跛行です。

なぜ休むと治まるのか。血流が足りないのではなく、「動いたときに必要な量」に足りないからです。じっとしていれば筋肉が使う酸素は少なくてすむので、細くなった血管でも間に合います。だから「安静時は平気」なのです。

ここで、実習で使える視点をひとつ。間欠性跛行は「何メートル歩いたら痛くなるか」で重症度がわかります。「以前は500m歩けたのに、今は100mで休む」なら、進行しているということです。

そして忘れてはいけないのが、血栓はもっと急に、もっと激しく詰まることもあるということです。合併症②でくわしく見ていきます。

腹部大動脈瘤の合併症の関連図

腹部大動脈瘤の合併症の関連図。壁在血栓が形成されて血栓塞栓症に至る流れ、大動脈内膜亀裂から偽腔形成を経て大動脈解離に至る流れ、大動脈壁の全層が破綻して大動脈破裂に至る流れを矢印でつないだ図
らくらく関連図アプリより一部抜粋

合併症は大動脈破裂・血栓塞栓症・大動脈解離の3つを取り上げます。

読むときの視点を先にお伝えします。3つとも、出発点は同じ「大動脈壁が脆弱化」です。そこから、壁がどう壊れるかで結果が変わります。

■ 3つの合併症の位置づけ
大動脈破裂
壁が全層とも破れる。血液が体の外(血管の外)へ一気に漏れ出す。この疾患でいちばん怖い結末
大動脈解離
壁の内側だけが裂けて、中膜の中に血液が入り込む。破裂とは壊れ方が違う
血栓塞栓症
壁は壊れない。瘤の中にできた血栓が飛んでいく。症状③の続き

「破けるのか」「裂けるのか」「飛ぶのか」。この3つで整理すると、名前を混同しなくなります。

合併症① 大動脈破裂

腹部大動脈瘤の破裂の図解。壁の全層が破綻して血液が漏れ出し、循環血液量が急減して出血性ショックに至る流れと、破裂の古典的3徴(突然の腹痛・背部痛、血圧低下、腹部拍動性腫瘤)が3つ揃うのは約50%であることを示している

この疾患で、いちばん警戒すべき合併症です。ガイドラインも「大動脈瘤の最も重要な臨床的問題は破裂である」と明記しています。

関連図の流れを追ってみましょう。

■ 破裂に至るまで
① 壁が薄く弱くなる
大動脈壁の拡張 → 中膜が変性 → 弾性が低下 → 大動脈壁が脆弱化
② 圧力がかかりつづける
大動脈壁に血圧負荷
③ 傷みが進む
大動脈壁の損傷が進行
④ 全部破れる
大動脈壁の全層が破綻
⑤ 漏れ出す
血液が大動脈外へ漏出 → 大動脈破裂

そして、破れたあとに何が起こるか。ここからは分単位の話になります。

血液が血管外へ大量に漏出循環血液量が急減静脈還流量低下心拍出量低下出血性ショック

同時に、行き先を失った血液が全身から足りなくなります。

■ 血液が足りなくなると、どこから壊れるか
脳血流低下 → 脳への酸素供給低下 → 脳機能低下 → 意識障害
腎臓
腎血流量低下 → 腎臓への酸素供給低下 → 腎組織の虚血 → 糸球体濾過量低下 → 急性腎障害
全身
全身組織の灌流低下 → 出血性ショック
お腹の中
血液が腹腔内・後腹膜腔へ漏出 → 腹部膨満・後腹膜血腫 → 腸管の蠕動運動が低下 → 麻痺性イレウス

ここで、看護として絶対に知っておいてほしい一文があります。日本循環器学会のガイドラインには、こう書かれています。

■ ★腹部大動脈瘤破裂の「古典的3徴」★(出典:日本循環器学会 診療ガイドライン)
3徴
① 突然の腹痛・背部痛 ② 血圧低下 ③ 腹部拍動性腫瘤
★ここが決定的★
「3つ揃うのは全体の約50%であり、3つ揃わなくても腹部大動脈瘤の破裂を疑う」

3つ揃うのは、半分だけ。つまり半分の患者さんは、3徴のうち1つか2つしか出ていません。

だから「3徴が揃っていないから違う」と考えてはいけないのです。ガイドライン自身が「揃わなくても疑え」と書いています。

死亡率も見ておきましょう。ガイドラインによれば、循環動態が不安定な腹部大動脈瘤破裂の死亡率は、ステントグラフト内挿術で37%、外科手術で62%と報告されています。

治療してもなお、これだけの数字です。だからこの疾患は「破裂する前に見つけて、破裂する前に治す」——それしかありません。破裂率の表が、あれほど細かく径ごとに分かれているのは、このためです。

合併症② 血栓塞栓症

腹部大動脈瘤の血栓塞栓症の図解。壁在血栓の一部が末梢へ飛んで、下肢の動脈や足趾の動脈、末梢神経、上腸間膜動脈を詰まらせる5つのルートと、ゆっくり詰まる場合と急に詰まる場合の違いを示している

症状③(間欠性跛行)と同じ幹から分かれる、もっと急な形です。

出発点は同じ。瘤内の血流停滞・乱流 → 血液がうっ滞 → 血小板凝集 → 凝固系が活性化 → 壁在血栓が形成 → 血栓の一部が遊離 → 血栓が末梢へ移動

ここから、どこに詰まったかで症状が変わります。

■ 血栓が詰まる場所と、出てくる症状
下肢の動脈をゆっくり狭くする
下肢動脈の狭窄 → 歩行時の痛み → 間欠性跛行(症状③)
下肢の動脈を急に詰まらせる
急激に下肢への血流低下 → 下肢の激痛
足趾へ向かう細い動脈を詰まらせる
足趾への血流低下 → 足趾蒼白
末梢神経への血流が途絶える
末梢神経への酸素供給低下 → 感覚神経機能障害 → 下肢の知覚神経麻痺
★上腸間膜動脈を詰まらせる★
腸管への酸素供給低下 → 腸管虚血 → 腸管組織の代謝障害 → 代謝産物が蓄積 → 腸管壁の侵害受容器が強く刺激 → 突然の激しい腹痛

ここで、ゆっくり詰まる場合と急に詰まる場合の違いを押さえてください。

■ ゆっくり詰まる/急に詰まる
ゆっくり(間欠性跛行)
歩くと痛い、休むと治まる。時間をかけて進むので、まわりの血管が発達して補う余地がある
急に(急性動脈閉塞)
激痛・蒼白・しびれ。休んでも治まらない。血流が突然途絶えるので、補う余地がない。★時間との勝負★

「休むと治まるか」が、ゆっくりと急を分ける目印です。

とくに注意したいのが上腸間膜動脈のルートです。腸に血液を送る動脈が詰まると、突然の激しい腹痛が出ます。腹部大動脈瘤の患者さんの激しい腹痛は、破裂かもしれないし、腸への血栓かもしれない——どちらにせよ急ぎます。

実習では、足背動脈の触知が意味を持ちます。検査の項目にも「足背動脈などの触診:下肢への血流障害の有無を確認する」と入っています。左右差、冷たさ、色、しびれをあわせて見てください。

合併症③ 大動脈解離

大動脈破裂と大動脈解離の違いを示した図解。内膜が裂けて血液が中膜内へ流入し偽腔ができる解離の流れと、壁の全層が破綻して血液が血管の外へ出る破裂を並べて比べている

3つめは大動脈解離です。名前が似ているので、破裂との違いをはっきりさせておきましょう。

関連図の流れはこうです。

■ 解離が起こるまで
① 壁が弱くなる
大動脈壁の拡張 → 中膜が変性 → 弾性が低下 → 大動脈壁が脆弱化 → 大動脈壁に血圧負荷(破裂と同じ出発点)
② 内側が裂ける
大動脈内膜に亀裂が入る。★ここから道が分かれる★
③ 壁の中へ入り込む
血液が中膜内へ流入する
④ 引き裂かれる
大動脈壁が内膜側と外膜側に引き裂かれる
⑤ 新しい空間ができる
偽腔形成 → 大動脈解離

破裂は「壁が全部やぶれて、血液が外へ出る」。解離は「壁の中に、血液が入り込む」。

イメージとしては、ホースの内側の膜が破れて、ホースの壁の中に水がしみこみ、内側と外側の層をはがしていく感じです。血液は、まだ体の中を流れています。だから解離が起きても、すぐに大出血にはなりません。

でも、危険であることは変わりません。裂けた部分から、そのまま外膜まで破れれば破裂になります。また、裂けた壁が枝分かれの血管をふさぐと、その先の臓器が虚血になります。

■ 破裂と解離を、こう区別する
大動脈破裂
壁の全層が破綻して、血液が血管の外へ出る → 循環血液量が急減 → 出血性ショック
大動脈解離
内膜だけが裂けて血液が壁の中(中膜)へ入る偽腔ができる → 壁がさらに弱くなり、破裂の危険が高まる

どちらも、行き着く先は同じ「破裂」です。だから両方とも、血圧のコントロールが決定的に重要になります。裂けかけている壁に、これ以上圧力をかけない——それが治療の基本です。

腹部大動脈瘤の検査

腹部大動脈瘤の検査をまとめた図解。腹部触診で疑い、腹部超音波検査で最大径を測り、造影CTで詳しく見て、血液検査で全身を評価する流れと、瘤径ごとに次に測る間隔が決まっていることを示している

この疾患の検査は、目的がはっきりしています。「あるかどうか」ではなく「何ミリか」を知るためです。破裂率がサイズで決まる以上、測ることが、そのまま治療方針を決めることになります。

■ ①まず、あるかどうかを疑う
腹部触診
拍動性腫瘤の有無を確認する。★機械がなくてもできる★
⚠️ ただし破裂の危険があるため、強く圧迫しない
血圧測定
高血圧や循環動態を確認する。血圧は原因でもあり、破裂時の指標でもある
足背動脈などの触診
下肢への血流障害の有無を確認する。血栓が飛んでいないかを見る
■ ②測る(ここが治療方針を決める)
腹部超音波検査
大動脈瘤の有無や最大径を確認する。体に負担がなく、繰り返しできるので、経過を追うのに向いている
★ガイドラインでは、40mm未満なら腹部エコー検査で経過を追ってよいとされています★
■ ③詳しく見る(手術を考えるとき)
造影コンピュータ断層撮影(造影CT)
瘤の大きさ・形・位置、分枝血管との関係、破裂の有無を詳しく確認する。破裂の診断と治療方法の決定にはCTを用いるとガイドラインに明記されている
磁気共鳴血管撮影(MRA)
大動脈や分枝血管の状態を評価する
■ ④全身を評価する
血液検査
貧血、腎機能、炎症反応などを確認する。手術に耐えられるかの評価にもなる

そして、この疾患ならではの「検査の続け方」があります。ガイドラインは、瘤の太さごとに、次にいつ測るかを決めています。

いまの瘤径 次に測るまでの間隔
30〜40mm未満 1〜2年ごと
40〜50mm未満 6ヵ月〜1年ごと
50〜55mm未満 3〜6ヵ月ごと
出典:日本循環器学会『2020年改訂版 大動脈瘤・大動脈解離診療ガイドライン』(エコーまたはCTで行う)

大きくなるほど、測る間隔が短くなります。40mm未満なら1〜2年に1回でよかったものが、50mmを超えると3〜6ヵ月ごと。破裂率の表と見比べると、その理由がはっきりわかります。

ここが看護として大事なところです。「経過観察」は「何もしない」ではありません。決められた間隔で測りつづけること、それ自体が治療です。

症状がないので、患者さんは受診をやめてしまいがちです。「調子がいいから、もう行かなくていい」と考えてしまう。でもこの疾患は、調子がいいまま破裂します。

腹部大動脈瘤の治療

腹部大動脈瘤の治療をまとめた図解。経過観察・血圧管理・禁煙という「待つ治療」と、人工血管置換術・ステントグラフト内挿術という「直す治療」を示し、手術適応が瘤径55mm以上であること、有症状ならサイズに関係なく急ぐことを伝えている

治療は大きく2つに分かれます。「待つ」か「取り替える」かです。

■ 待つ治療(瘤が小さいうち)
経過観察
瘤が小さく破裂リスクが低い場合は、定期的に画像検査を行い大きさの変化を確認する
血圧管理
大動脈壁にかかる負担を軽減する。★壁は戻せないが、押す力は減らせる★
禁煙
瘤の拡大や破裂リスクを低下させるために重要。ガイドラインは「小径大動脈瘤においても瘤拡大の抑制の観点から、禁煙指導には意義がある」としている
動脈硬化の管理
脂質異常症などの危険因子を治療する
■ 直す治療(瘤が大きくなったら)
人工血管置換術
瘤のある部分を人工血管に置き換える。お腹を開いて、傷んだ血管そのものを交換する
ステントグラフト内挿術(EVAR)
カテーテルを用いて瘤の内側に人工血管を留置し、瘤に血圧がかからないようにする。★瘤は残るが、圧力がかからなくなるので破裂しなくなる★
緊急手術
大動脈瘤が破裂した場合は、救命のため緊急で手術を行う

では、いつ「待つ」から「取り替える」に切り替わるのか。ここもガイドラインが数字で決めています。

■ 手術に踏み切る基準(出典:日本循環器学会 診療ガイドライン 表24)
瘤径55mm以上
侵襲的治療を行う(推奨クラスI・エビデンスレベルA)
★有症状★
「有症状の症例ではすみやかに侵襲的治療を行う」(推奨クラスI)
サイズに関係なく急ぐ。この記事でいちばん大事な一行
瘤径50mm以上
侵襲的治療を考慮する(推奨クラスIIa)
嚢状瘤・急速に大きくなる瘤
嚢状瘤や急速拡大(半年で5mm以上)する瘤には侵襲的治療を考慮する(推奨クラスIIa)

この表から読み取ってほしいことが2つあります。

ひとつめ。「55mm」という数字には根拠があります。ガイドラインによれば、55mm未満で手術しても、55mmになってから手術しても、生命予後は変わらないことが複数の研究で示されています。早く手術すればいいわけではない——手術そのものにも危険があるからです。

ふたつめ。症状と、急速拡大は、サイズを飛び越えます。50mmでも40mmでも、症状があれば「すみやかに」。半年で5mm以上大きくなれば、それも手術を考える理由になります。

だから「何ミリか」だけでなく「変わったか」も見ています。

最後に、患者さんへの説明で効く視点をひとつ。

「経過観察」と言われた患者さんは、しばしば見放されたように感じます。でも実際は違います。手術しないほうが安全な段階だから、しないだけです。

そしてそのあいだにできることが、はっきりあります。血圧を下げること、タバコをやめること、決められた間隔で測りに来ること。この3つは、患者さん自身にしかできない治療です。

看護のポイント

腹部大動脈瘤の看護のポイントをまとめた図解。破裂のサインを見逃さない、腹痛をよくある腹痛で片づけない、血圧を管理する、禁煙を支え受診を続けてもらう、下肢と気持ちを支えるの5点を示している
■ 看護のポイント
破裂のサインを見逃さない(最優先)
突然の腹痛・背部痛/血圧低下/腹部拍動性腫瘤が古典的3徴。★ただし3つ揃うのは約50%。揃わなくても破裂を疑う(ガイドライン)★
「今までなかった痛みが急に出た」は、それだけで報告する理由になる
腹部を強く押さない
触診は必要だが、破裂の危険があるため強く圧迫しない。学生が自己判断で深く触るのは避ける。拍動性腫瘤に気づいたら、まず報告する
血圧を管理する
血圧は、壁を弱らせる原因であり、弱った壁を押し広げる力でもある。降圧薬の内服が続いているか、値が安定しているかを追う。いきむ動作(排便時など)でも血圧は上がるので、便秘の管理も意味を持つ
★禁煙を支える★
ガイドラインが「瘤拡大と破裂の最も重要な危険因子」と書いている。65〜75歳男性の有病率は、喫煙歴ありで6〜7%、なしで2%。「様子を見ましょう」ではなく「タバコをやめることが、いちばんの治療です」と伝える
受診を続けてもらう
症状がないので、患者さんは受診をやめてしまいがち。「調子がいいから、もう行かなくていい」と考える。★この病気は、調子がいいまま破裂する
瘤の大きさによって次に測る間隔が決まっていることを、理由として説明する
下肢の血流を見る
足背動脈の触知、左右差、冷たさ、色、しびれ。瘤の中の血栓が飛べば、下肢の激痛・足趾蒼白・知覚神経麻痺が出る。「歩くと痛い、休むと治まる」(間欠性跛行)は、何メートルで痛くなるかまで聞く
腹痛を「よくある腹痛」で片づけない
無症状の病気に症状が出た=段階が変わった、と読む。ガイドラインの手術適応は「有症状の症例ではすみやかに」痛みの場所が瘤の位置と一致するときは、切迫破裂の可能性がある
術後は下肢の血流と腎機能をみる
人工血管置換術・ステントグラフト内挿術のあとは、下肢への血流が保たれているかを確認する。造影剤を使うため、腎機能もあわせて追う
気持ちを支える
「破裂したら助からない爆弾を抱えている」と感じる方は少なくない。一方で「経過観察=見放された」と受け取る方もいる。「いまは手術しないほうが安全な段階」であることと、自分でできることが3つあることを、あわせて伝える

腹部大動脈瘤の看護でいちばん大事なのは、「症状がないこと」を、安心の材料にしないことです。

ほとんどの疾患では、症状が軽ければ状態も軽い。でもこの疾患は違います。80mmまで大きくなっても、破裂するまでは無症状のことがあります。そして破裂すれば、治療しても37〜62%が亡くなります。

だからこそ、血圧を測ること、タバコの話をすること、次の受診日を確認すること——どれも地味な関わりですが、その積み重ねが、いちばん怖い結末を遠ざけています。

まとめ

腹部大動脈瘤は、ほかの疾患と読み方が違います。ここまでの流れを、5つに整理します。

① この病気は、症状ではなく「サイズ」で語る
正常な腹部大動脈は約20mm。30mmを超えたら「瘤」(正常径の1.5倍)。
破裂率は径で決まります。40mm未満は0%、80mm以上は年に30〜50%
だから検査も治療も、全部「何ミリか」で決まります。
② 壊れているのは「中膜」。そして元に戻らない
中膜の弾性線維・平滑筋細胞が障害大動脈壁が脆弱化血圧に押し広げられる
押し広げているのは血圧です。だから血圧を下げることに意味があります。
③ 症状は2系統しかない
系統A:大きくなって、まわりを押す
腹部の拍動感・腹痛・背部痛・腰痛(どこを押したかで痛む場所が変わる)
系統B:瘤の中で血栓ができて、飛ぶ
間欠性跛行・下肢の激痛・足趾蒼白・知覚神経麻痺
④ 合併症は「破ける・裂ける・飛ぶ」
大動脈破裂
壁の全層が破れて、血液が外へ出る → 出血性ショック
大動脈解離
内膜だけが裂けて、血液が壁の中へ入る → 偽腔ができる
血栓塞栓症
壁は壊れず、中の血栓が飛ぶ → 下肢や腸の動脈が詰まる
⑤ ただし、症状が出たらサイズを飛び越える
ガイドラインの手術適応は瘤径55mm以上でも——
「有症状の症例ではすみやかに侵襲的治療を行う」
無症状の病気に症状が出たということは、それ自体が異常事態です。
★破裂の3徴(突然の腹痛・背部痛/血圧低下/腹部拍動性腫瘤)は、3つ揃うのは約50%。揃わなくても疑う

覚えるコツは、「ふだんはサイズで見る。でも症状が出たら急ぐ」という一文です。

この疾患のいちばん怖いところは、調子がいいまま進行することです。患者さんは元気で、痛くもなく、ふつうに生活しています。そのあいだに、瘤は静かに大きくなっています。

だから「症状がない」を、安心の材料にしない。——ここが、この疾患を学ぶ価値だと思います。

🔗 あわせて読むと理解が深まります

胸部大動脈瘤の関連図をイラストで解説|嗄声・嚥下困難はなぜ起こる?
同じ大動脈瘤でも、できる場所が違うと症状が変わります。胸部は反回神経・食道・気管を押すので嗄声や嚥下困難で気づかれ、腹部はまわりが空いているので、大きくなるまで気づかれません。
「症状は、まわりに何があるかで決まる」——2本セットで読むと、ここが腑に落ちます。

患者さんが何気なく言った「お腹がドクンドクンするんです」「歩くと足が痛くて、休むと治るんです」という一言。それを、いま体の中で起きていることと結びつけられるか——そこが、この疾患を学ぶ意味だと思います。

追加した関連図が、みなさんの実習記録づくりの助けになればうれしいです。「この疾患も追加してほしい」というリクエストは、公式LINEやお問い合わせからいつでもお待ちしています!

あわせてチェック

  • らくらく関連図アプリ らくらく関連図アプリ:120種類以上(2026年7月現在)の関連図と50種類以上の看護計画が見放題
  • らくらく関連図SHOP らくらく関連図SHOP:関連図・看護計画・アセスメントのPDFが1枚から買える
  • 公式LINE 公式LINE:新着の関連図解説記事や実習・国試に役立つ情報を配信中。LINE限定の無料PDFも期間限定でダウンロードできます。

■ 出典・参考資料