看護学生のみなさんにお知らせです!

このたび、「らくらく関連図」アプリに多発性筋炎の関連図を追加しました。

「筋力低下」と聞くと、ぼんやりした症状に思えるかもしれません。でも、多発性筋炎の筋力低下にははっきりした型があります。

それは、体に近い筋肉(近位筋)から、左右対称に落ちていくということ。だから患者さんの訴えは、いつも似た形になります。「階段が上れない」「椅子から立ち上がれない」「腕が上がらない」——この3つです。

そして、この疾患を理解する鍵がもうひとつあります。筋肉は、骨格筋だけではないということです。心臓を動かしているのも、呼吸をしているのも、飲み込んでいるのも筋肉です。だから攻撃の手は、そこにも届きます。

この記事では、関連図の流れにそって原因・症状・合併症を解説していきます。「筋肉があるところは、どこでも標的になる」という視点で読んでみてください。

多発性筋炎とはどんな病気?

多発性筋炎の全体像の図解。免疫が自分の筋肉を敵とみなし、筋線維が壊れて、筋肉があるところに症状が出る流れを示す。階段が上れない、嚥下障害、呼吸障害、心筋炎に枝分かれし、間質性肺炎だけは筋肉ではなく別ルートであることを点線で示している

多発性筋炎は、免疫の異常によって、主に骨格筋に炎症が起こる自己免疫性の疾患です。筋肉の炎症で筋線維が壊れ、少しずつ筋力が落ちていきます。

攻撃されやすいのは、肩や上腕、骨盤のまわり、大腿など、体幹に近い筋肉です。こうした筋肉を近位筋と呼びます。逆に、手先や足先の筋肉(遠位筋)は比較的あとまで保たれます。

この「近位筋から」という性質が、患者さんの訴えをそのまま決めています。箸は持てるのに、階段が上れない。字は書けるのに、腕が上がらない。ここに気づけるかどうかが、この疾患を拾えるかどうかの分かれ目です。

なお、特徴的な皮疹をともなうものは「皮膚筋炎」として区別されます。上まぶたの紫紅色の紅斑(ヘリオトロープ疹)や、手指の関節背面の紅斑(ゴットロン徴候)が代表です。多発性筋炎はこの皮膚症状を欠くもの、と考えてください。

■ 数字で見る多発性筋炎(出典:難病情報センター「皮膚筋炎/多発性筋炎(指定難病50)」)
患者数
23,168人(令和元年度の医療受給者証保持者数)。指定難病50に指定されている
発症のピーク
5〜9歳と50歳代の2つ。子どもにも大人にも起こる
男女比
1対3で女性に多い
予後
初発患者のうち約10%は死の転機を迎える。全症例の5年生存率は約80%前後

そして、予後を語るうえで外せない一文が、難病情報センターの解説にあります。

「間質性肺炎を伴うことがあり、生命予後を左右する」——筋肉の病気なのに、いのちを左右するのは肺だということです。合併症のセクションで、この意味をくわしく見ていきます。

もうひとつ、知っておいてほしいことがあります。治療後も過半数の症例に筋力低下が残るとされ、ステロイドを減らすと再燃しやすい病気でもあります。短期決戦ではなく、長く付き合う疾患だという前提が、看護では効いてきます。

正常な骨格筋のつくりと、炎症で壊れるまで

正常な筋肉と多発性筋炎の筋肉を比べた図解。筋線維がそろって縮む正常な状態と、炎症細胞が入り込んで筋線維が壊れクレアチンキナーゼが血液中へ漏れ出す状態を並べ、近位筋と遠位筋の違いもあわせて示している

関連図に入る前に、正常な状態を確認しておきます。ここを押さえると、検査値の意味まで一気につながります。

骨格筋は、筋線維という細長い細胞が束になってできています。1本1本の筋線維の中には筋原線維がぎっしり詰まっていて、これが縮むことで力が生まれます。筋線維の数と質が、そのまま筋力になると考えてください。

ここで、検査につながる大事な事実があります。筋線維の中には、酵素がたくさん入っています。代表がクレアチンキナーゼ(CK)です。筋肉がエネルギーを使うために必要な酵素で、ふだんは筋線維の中に閉じ込められています。

ということは——筋線維が壊れると、中身が血液中に漏れ出します。だから血液検査でCKが上がるのです。CKの上昇は「筋肉が壊れている量」を映していると考えると、検査値がただの数字ではなくなります。

では、多発性筋炎では何が起きるのか。免疫が、自分の筋線維を「異物」と見なして攻撃します。

■ 正常な筋肉と、多発性筋炎の筋肉
正常な筋肉
筋線維がすきまなく並び、必要なときに一斉に縮む。CKは筋線維の中に収まっている
多発性筋炎の筋肉
筋線維のまわりに炎症細胞が入り込み、筋線維が変性・壊死する。壊れた筋線維からCKが漏れ出し、収縮できる筋線維の数が減っていく

もうひとつ、押さえておきたい区別があります。近位筋と遠位筋です。

■ 近位筋と遠位筋
近位筋(体幹に近い)
肩・上腕・骨盤のまわり・大腿。多発性筋炎で先にやられるのはこちら。「立つ・上る・腕を上げる」といった大きな動作を担当している
遠位筋(体の先のほう)
手指・前腕・下腿・足。比較的あとまで保たれる。「つまむ・字を書く」といった細かい動作を担当している

だから多発性筋炎の患者さんは、細かい作業はできるのに、大きな動作ができないという、一見ちぐはぐな状態になります。「手はちゃんと動くのに、立ち上がれない」——これがこの疾患の顔つきです。

多発性筋炎の原因の関連図

多発性筋炎の原因の関連図。遺伝的素因・自己免疫反応の異常・感染症に合併して発症という3つの入口から、自己の筋線維を異物として認識し、細胞傷害性Tリンパ球が活性化して筋線維が壊死し、筋力低下に至るまでを矢印でつないだ図
らくらく関連図アプリより一部抜粋

先に、いちばん大事なことをお伝えします。多発性筋炎の明確な原因は、まだ分かっていません。難病情報センターでも「発病の機構:不明」とされています。

ただし、発症に関わると考えられている入口はいくつか知られています。関連図では3つ描かれていて、どれも同じ1点に集まります。

それが「自己の筋線維を異物として認識する」という一歩です。ここを越えてしまうと、あとは1本道になります。

■ 異物と認識されたあとの共通ルート(ここは全部同じ)
細胞傷害性Tリンパ球が活性化 → ここから2本に分かれて筋線維を壊しにいく
ルート1:直接たたく
細胞傷害性Tリンパ球が筋線維へ集まり直接攻撃して筋線維が障害される
ルート2:炎症で巻き込む
炎症性サイトカインが放出 → 炎症反応が増強 → 炎症細胞が筋組織へ集まる → 筋組織に炎症 → 筋線維が障害
合流点
筋線維の構造が破壊 → 筋線維が壊死 → 正常に収縮できる筋線維が減少 → 筋肉の収縮力低下 → 筋力低下

ここが、この疾患の心臓部です。「収縮できる筋線維が、数として減っていく」から力が出ない。筋肉が疲れているのでも、神経の伝わりが悪いのでもありません。働き手そのものが減っているのです。

では、3つの入口をそれぞれ見ていきます。

原因① 自己免疫反応の異常

免疫が筋肉を壊すしくみの図解。自分の筋線維を異物として認識し細胞傷害性Tリンパ球が活性化したあと、直接たたくルートと炎症で巻き込むルートの2つに分かれ、どちらも筋線維の壊死に行き着く流れを示している

本流のルートです。関連図でも、ここが中心の太い流れになっています。

免疫には本来、「自分の体は攻撃しない」という見分け方が備わっています。ところがこの仕組みが崩れると、自分の筋線維を異物として認識してしまいます。

すると細胞傷害性Tリンパ球が活性化します。これは、ウイルスに感染した細胞やがん細胞を見つけて殺す、いわば免疫の実行部隊です。本来なら頼もしい細胞が、自分の筋肉に差し向けられてしまう——これが多発性筋炎の正体です。

攻撃の仕方は2通りあります。ひとつは細胞傷害性Tリンパ球が筋線維に直接とりつき、そのまま壊すやり方。もうひとつは炎症性サイトカインをまき散らして、まわりの炎症細胞を呼び集めるやり方です。

結果は同じで、筋線維が障害され、壊死していきます。壊れた筋線維は再生しようとしますが、攻撃が続くかぎり追いつきません。壊れる速さが、直す速さを上回る——だから筋力は少しずつ落ちていきます。

ちなみに、この「単核球が筋線維のまわりに入り込み、筋線維が変性・壊死・再生している」という像は、筋生検で実際に見える所見です。だから診断に筋生検が使われます。

原因② 遺伝的素因

多発性筋炎の原因のうち遺伝的素因を示した図解。免疫の働き方に関わる体質が受け継がれることはあるが、それだけでは発症せず、発病の機構はまだ分かっていないことを示し、家族への説明のしかたもあわせて示している

①の「何らかの理由で免疫の見分けが崩れる」の、その背景のひとつが遺伝です。

関連図では、遺伝的素因 → 自己免疫反応の異常と、まっすぐつながっています。ほかの入口より短い矢印ですが、意味は重要です。同じ環境で暮らしていても、発症する人としない人がいる——その差の一部を説明しています。

ここで、患者さんや家族から必ず聞かれることがあります。「これは遺伝する病気ですか?」という質問です。

答え方としては、「なりやすさが受け継がれることはあるが、遺伝子だけで発症が決まるわけではない」が正確です。難病情報センターも「発病の機構:不明」としています。遺伝的素因は「発症する運命」ではなく「引き金が効きやすい体質」だと考えてください。

実習で家族歴を聞くのは、原因を突き止めるためではありません。ほかの膠原病や自己免疫疾患が家族にないかを知り、全体像をつかむためです。聞き方ひとつで受け取られ方が変わるところなので、意識しておくと役に立ちます。

原因③ 感染症に合併して発症

多発性筋炎の原因のうち感染症に合併して発症する流れの図解。感染で自然免疫が活性化し、免疫のスイッチが強く入ることで、自分の筋線維まで標的として拾ってしまう流れを示している

3つめは、感染をきっかけに発症するルートです。

関連図では、感染症に合併して発症 → 感染に伴い自然免疫が活性化 → 自己の筋線維を異物として認識という流れになっています。

この一歩を、少していねいに読み解きます。感染が起きると、体は自然免疫——生まれつき備わっている、素早く働く防御システム——を立ち上げます。これ自体は正しい反応です。侵入者を追い出そうとしているだけです。

ところが、免疫全体のスイッチが強く入った状態では、本来なら見逃されるはずの「自分の組織」まで標的として拾われてしまうことがあります。敵を探す目が鋭くなりすぎて、味方まで疑ってしまう——そんなイメージです。

実習では、「筋力が落ちてきた前に、感染症にかかりませんでしたか?」という問診が意味を持ちます。関連図の矢印の出発点を、自分の口で確認しにいく作業だと思ってください。

ただし、くり返しになりますがこれらは「関わっていると考えられている入口」であって、原因が確定しているわけではありません。患者さんに説明するときも、断定しない言い方が大切です。

多発性筋炎の症状の関連図

多発性筋炎の症状の関連図。自己免疫反応の異常から、骨盤帯近位筋の筋力低下によるガワーズ徴候、関節周囲組織の炎症による関節炎、肩や上腕の筋力低下に至る流れを矢印でつないだ図
らくらく関連図アプリより一部抜粋

ここがこの疾患のいちばん大事なところです。症状はたくさんありますが、読み方はひとつです。

「どこの筋肉が攻撃されたか」で、症状が決まる。——ただそれだけです。関連図を見ると、ほとんどの枝が「自己免疫反応異常 → ○○の筋組織を攻撃 → ○○に炎症 → ○○の筋力低下」という、まったく同じ形をしています。

■ 攻撃された場所と、出てくる症状
骨盤周囲・大腿の近位筋
階段が上れない・椅子から立ち上がれない/進むとガワーズ徴候
肩・上腕の近位筋
腕が上がらない(髪をとかす、洗濯物を干すが難しくなる)
咽頭・食道上部の筋
嚥下障害。進むと誤嚥・窒息につながる
横隔膜・肋間筋(呼吸筋)
呼吸障害。胸郭を十分にふくらませられなくなる
舌・咽頭の筋
構音障害。言葉が明瞭に発音しにくくなる
心筋
心筋炎。合併症のセクションで扱う

骨格筋だけを見ていると、この疾患は見誤ります。心臓も、呼吸も、飲み込みも、動かしているのは筋肉です。だから同じ攻撃が、同じ形で、別の場所に起きているだけなのです。

関連図にはもうひとつ、筋肉そのものではない枝もあります。関節周囲組織を攻撃するルート(関節炎・関節痛)と、炎症性サイトカインが全身に回るルート(発熱・倦怠感・体重減少)です。

ここでは、筋力低下・ガワーズ徴候・関節炎の3つを詳しく見ていきます。

症状① 筋力低下

多発性筋炎の筋力低下のしくみの図解。筋線維が壊死して収縮できる筋線維が減り、筋肉の収縮力が低下して近位筋の筋力低下に至る流れと、階段が上れない・椅子から立ち上がりにくい・腕が上がらないという3つの訴えを示している

この疾患の中心となる症状です。

流れは原因のセクションで見たとおりです。筋線維が障害 → 構造が破壊 → 壊死 → 正常に収縮できる筋線維が減少 → 筋肉の収縮力低下 → 筋力低下

大事なのは、この筋力低下には決まった型があることです。

■ 多発性筋炎の筋力低下の型
① 左右対称
片側だけということはない。両方の脚、両方の腕が同じように落ちていく
② 近位筋から
体幹に近い筋肉が先。手先・足先は比較的あとまで保たれる
③ ゆっくり進む
数週間から数か月かけて、じわじわ進行する。ある朝突然動かない、という出方ではない

この型があるから、患者さんの訴えは決まった形になります。関連図にも、そのまま3つ書かれています。

■ 患者さんの言葉と、対応する筋肉
「階段を上るのがつらい」
大腿・骨盤周囲の筋力低下。階段は、体重を片脚で持ち上げる動作。近位筋がいちばん試される
「椅子から立ち上がりにくい」
下肢の筋力低下。立ち上がりも、太ももとお尻の力で体を持ち上げる動作
「腕が上がらない」
肩や上腕の筋力低下。髪をとかす、高い棚のものを取る、洗濯物を干すが難しくなる

実習では、「どの動作ができないか」を具体的に聞くことが、そのまま「どの筋肉がやられているか」の情報になります。「なんとなくだるい」で終わらせず、動作の名前で聞くのがコツです。

そして忘れてはいけないのが、嚥下に関わる筋力の低下です。難病情報センターには「嚥下にかかわる筋力の低下は、誤嚥や窒息死の原因となる」と書かれています。腕や脚の筋力ばかり見ていると、ここを見落とします。

症状② ガワーズ徴候(登攀性起立)

ガワーズ徴候(登攀性起立)の図解。骨盤帯の近位筋の筋力低下により、床に手をつき、自分の膝を手で押し、手を大腿に沿って上へ移動させて立ち上がるという4つの動きを順に示している

近位筋の筋力低下が進んだときに現れる、特徴的な立ち上がり方です。登攀性起立とも呼ばれます。「登攀」は、よじ登るという意味です。

関連図の流れを追ってみましょう。骨盤周囲・大腿部の近位筋を攻撃 → 近位筋に炎症 → 骨盤帯近位筋が障害 → 骨盤帯近位筋の筋力低下。ここまでは症状①と同じです。

問題はその先です。下肢の筋だけでは立ち上がりにくくなります。すると体は、足りない力をどこかで補おうとします。

■ ガワーズ徴候の4ステップ
① まず床に手をつく
座った姿勢から、両手を床につけて上半身を支える
② 自分の膝を手で押す
両手で床や大腿、自分の膝を押して体を支える。腕の力で、脚の力を肩代わりしている
③ 手を大腿に沿って上へ移動
手を大腿に沿って上へ移動させながら、少しずつ体を起こしていく。「自分の体をよじ登る」ように見える
④ 立ち上がる
ようやく直立にたどりつく。健康な人なら一瞬で終わる動作に、何段階もかかる

「自分の体を、はしごのようによじ登って立つ」——これがガワーズ徴候のイメージです。登攀性起立という名前が、そのまま動きを表しています。

この徴候が大切なのは、見ればわかるからです。検査機器も採血もいりません。患者さんが椅子や床から立ち上がる場面をひとつ観察するだけで、近位筋の筋力低下がどこまで進んでいるかが読み取れます。

実習では、ベッドから起き上がる場面、トイレから立ち上がる場面を意識して見てみてください。介助に入る前の数秒が、いちばん情報を持っています。

なお、ガワーズ徴候はデュシェンヌ型筋ジストロフィーで有名な徴候でもあります。ただしこれは「その病気だけに出るサイン」ではなく、近位筋の筋力低下があれば出るサインです。国試ではどちらでも問われうるので、「近位筋がやられている証拠」として覚えておくのが確実です。

症状③ 関節炎

多発性筋炎の関節炎のしくみの図解。関節周囲組織の炎症から血管が広がり、毛細血管の透過性が高まって水分が漏れ出し腫脹に至る流れと、骨破壊を伴わない点で関節リウマチと違うことを示している

3つめは、筋肉ではなく関節の症状です。

免疫の攻撃先は筋線維だけではありません。関連図では、関節周囲組織を攻撃 → 関節周囲組織に炎症 → 炎症細胞が活性化 → 炎症性サイトカイン放出 → 関節滑膜の炎症反応 → 関節炎という枝が描かれています。

関節が腫れるしくみは、炎症の基本形そのものです。

■ 関節が腫れるまで
① 血管が広がる
関節滑膜の毛細血管が拡張する。炎症の場所に血液を集めるための反応
② すきまが開く
毛細血管の透過性が亢進。血管の壁のすきまが広がる
③ 水分が漏れ出す
血漿成分が関節滑膜の組織内へ漏出し、関節周囲組織に水分が貯留する
④ 腫れる
関節周囲組織に浮腫が起こり、腫脹として見えるようになる

同じ炎症から関節痛も出ます。関節滑膜や周囲組織が刺激され、痛覚神経を刺激するという流れです。

ここで、実習でも国試でも効いてくる区別があります。診断基準には、この症状が「骨破壊を伴わない関節炎又は関節痛」と書かれています。

つまり——関節リウマチのように、骨や軟骨が壊れて変形が残ることは基本的にありません。腫れて痛みますが、炎症がおさまれば関節は元に戻ります。関節リウマチとの大きな違いなので、押さえておくと混同しません。

多発性筋炎の合併症の関連図

多発性筋炎の合併症の関連図。心筋炎から不整脈と心不全に分かれる流れと、肺間質に免疫細胞が凝集して間質性肺炎に至る流れを矢印でつないだ図
らくらく関連図アプリより一部抜粋

合併症は、攻撃の手が骨格筋の外へ広がった結果として起こります。ここでは心不全間質性肺炎不整脈を取り上げます。

読むときの視点を先にお伝えします。

■ 3つの合併症の位置づけ
心不全・不整脈
どちらも「心筋炎」から枝分かれする。心臓も筋肉でできているので、骨格筋と同じ攻撃を受ける。進行例で見られる
間質性肺炎
これだけは筋肉ではない。免疫の異常が肺の間質そのものに向かう。そして——この疾患の生命予後を左右するのは、これ

難病情報センターの解説には、はっきりこう書かれています。「間質性肺炎を伴うことがあり、生命予後を左右する」筋肉の病気なのに、いのちを決めるのは肺——ここがこの疾患のいちばん大事な逆説です。

合併症① 心不全

多発性筋炎で心不全が起こるしくみの図解。心筋細胞が攻撃されて心筋炎となり、心筋の収縮力が低下して心拍出量が減少し心不全に至る流れを示し、心不全の初期症状が病気そのものの症状と重なることを注意点として示している

まず、心臓です。心臓を動かしているのも筋肉(心筋)だということを思い出してください。

関連図の流れはこうです。自己免疫反応の異常 → 心筋細胞を攻撃 → 心筋細胞に炎症 → 心筋炎。ここまでは、骨格筋で起きていたこととまったく同じ形です。

そこから先が、心臓ならではの展開になります。

■ 心筋炎から心不全になるまで
① 心筋細胞が障害
炎症で心筋の細胞そのものが傷む
② 心筋の収縮力が低下
骨格筋で「収縮できる筋線維が減った」のと同じことが、心臓で起きる
③ 心拍出量が減少
1回に送り出せる血液の量が減る
④ 全身への血液供給が困難
必要な量を送り届けられなくなる
⑤ 心不全
全身が酸素不足になり、だるさ・息切れ・むくみとして現れる

ここで、看護として知っておきたい落とし穴があります。心不全の初期症状は「倦怠感」「息切れ」「疲れやすさ」です。ところが多発性筋炎では、これらの症状がすでに病気そのものによって出ています。

「筋力低下のせいで疲れやすいのだろう」と片づけてしまうと、心不全の始まりを見逃します。だからこそ、脈・血圧・体重・むくみという、症状の訴えに頼らない指標を追いかけることに意味があります。

合併症② 間質性肺炎

多発性筋炎の間質性肺炎のしくみの図解。肺の間質に免疫細胞が集まり炎症が起こって線維化し、間質が厚くなって肺胞から毛細血管への酸素移動が低下する流れを、正常な肺との比較とあわせて示している

この疾患で、いちばん警戒すべき合併症です。

まず「間質」という言葉を押さえます。肺には、空気が入る袋(肺胞)と、そのまわりを走る毛細血管があります。その間を埋めている、うすい壁のような組織が「間質」です。

酸素は、肺胞 → 間質 → 毛細血管という順に通り抜けて血液に入ります。この壁がうすいからこそ、酸素はすっと移動できます。

間質性肺炎では、ここに炎症が起こります。

■ 間質が厚くなり、酸素が通れなくなるまで
① 肺間質に免疫細胞が集まる
免疫細胞の活性化が増悪し、肺の間質に凝集する
② 肺間質に炎症
炎症が起こり、肺胞壁が障害される
③ 線維芽細胞が活性化
傷を修復しようとする細胞が働き出す
④ コラーゲンが増加 → 間質が肥厚
修復のつもりが行きすぎて、壁がどんどん厚く、かたくなっていく
⑤ 距離が広がる
肺胞と毛細血管の間の距離が広がる。酸素が越えなければならない壁が厚くなる
⑥ 酸素が拡散困難 → 低酸素血症
肺胞から毛細血管への酸素移動が低下し、血液中の酸素が足りなくなる

ここが、ほかの肺炎と決定的に違うところです。細菌性肺炎のように、肺胞の中が膿でいっぱいになるわけではありません。空気は入っている。血液も流れている。でも、そのあいだの壁が厚くて酸素が渡れない。——これが間質性肺炎です。

そして、線維化した組織はもう元には戻りません。だから早く見つけて、進行を止めることが決定的に重要になります。

難病情報センターには、さらに踏み込んだ記述があります。「特に急速進行例には、そのまま進行して呼吸不全となって死に至る病型がある」。そして治療についても、「嚥下障害、急速進行性間質性肺炎のある症例では、救命のため、強力かつ速やかに治療を開始する必要がある」とされています。

この疾患で「急いで」と書かれているのは、ここだけです。筋力低下はゆっくり進みますが、間質性肺炎は速さが命に直結する——この温度差を知っておいてください。

看護としては、乾いた咳・動いたときの息切れ・呼吸数の増加・SpO₂の低下を拾うことになります。とくに「安静時は平気だが、動くと苦しい」は初期のサインとして重要です。

合併症③ 不整脈

多発性筋炎の不整脈のしくみの図解。心筋炎から刺激伝導系が障害され、電気の発生と伝導が乱れて心拍のリズムが乱れる流れを示し、心筋炎から心不全(力の問題)と不整脈(リズムの問題)の2つに分かれることを示している

合併症①と同じ「心筋炎」から分かれる、もう1本の枝です。

心臓には、規則正しく動くための電気の通り道があります。これを刺激伝導系と呼びます。洞結節で電気が生まれ、決まった順路で心房から心室へ伝わることで、心臓はきれいなリズムを刻んでいます。

関連図の流れはこうです。

■ 心筋炎から不整脈になるまで
① 心筋細胞に炎症 → 心筋炎
合併症①と同じ出発点
② 心臓の刺激伝導系が障害
電気の通り道そのものが炎症に巻き込まれる
③ 電気刺激の発生・伝導が乱れる
生まれ方も、伝わり方もおかしくなる
④ 心拍のリズムが乱れる → 不整脈
規則正しさが失われる

ここで、心不全との違いを整理しておきましょう。同じ心筋炎から出発しても、どこが壊れたかで結果が変わります。

■ 心筋炎から分かれる2つの道
筋肉としての心臓が弱る
心筋細胞が障害 → 収縮力が低下 → 心拍出量が減少 → 心不全(=ポンプの力の問題)
電気系統が乱れる
刺激伝導系が障害 → 電気の発生・伝導が乱れる → 不整脈(=リズムの問題)

「力が出ない」のが心不全、「リズムが狂う」のが不整脈。出発点は同じでも、見るべき指標が違います。心不全ならむくみ・体重・息切れ、不整脈なら脈の不整・心電図モニターです。

実習では、脈拍を「数」だけで記録しないことを意識してください。リズムが整っているかを必ず確かめる。多発性筋炎で心病変が進むのは進行例とされていますが、気づけるのはベッドサイドにいる人だけです。

多発性筋炎の検査

多発性筋炎の検査をまとめた図解。筋肉が壊れていることを確かめる血液検査、自己抗体検査、徒手筋力検査や筋電図などで筋肉そのものを調べる検査、筋生検、そして間質性肺炎や悪性腫瘍など合併症を探す検査を示している

検査の組み立ては、①筋肉が壊れていることを確かめる → ②その原因が「炎症・自己免疫」であることを確かめる → ③命に関わる合併症を探すという順で見ると、それぞれの意味が読み取れます。

■ 血液検査
クレアチンキナーゼ(CK)
筋線維の中にある酵素。筋線維が壊れると血液中に漏れ出すので上昇する。筋肉が壊れている量を映す指標
アルドラーゼ・乳酸脱水素酵素(LDH)
CKと同じく筋逸脱酵素。あわせて評価する
炎症反応(CRP・赤血球沈降速度)
全身の炎症の程度をみる。診断基準にも「全身性炎症所見」として入っている
■ 自己抗体検査
筋炎特異的自己抗体
抗ARS抗体(抗Jo-1抗体を含む)など、筋炎に関連する自己抗体を調べる。診断基準の項目のひとつ
★抗体を調べるのは、診断のためだけではありません。抗体の種類によって、間質性肺炎を合併しやすいかどうかが変わることが知られています。つまり「これから何に気をつけるか」を決める情報でもあります
■ 筋肉そのものを調べる検査
徒手筋力検査(MMT)
筋力低下の程度と部位を評価する。器具がいらず、経過を追うのに向いている
筋電図検査
筋肉の電気的活動を調べ、筋原性変化を確認する。神経が原因の筋力低下との区別にも使う
磁気共鳴画像検査(MRI)
筋肉の炎症や浮腫がどこにあるかを確認する。筋生検をどこから採るかを決めるのにも役立つ
筋生検
筋組織を採取し、炎症細胞の浸潤や筋線維の壊死を確認する。診断を確定させる検査
■ 合併症を探す検査(★ここが命に直結する★)
胸部コンピュータ断層撮影(CT)
間質性肺炎の有無を評価する。生命予後を左右する合併症なので、必ず確認する
心電図・心エコー
不整脈や心機能の低下を確認する
悪性腫瘍の検索
必要に応じて全身を検査する。難病情報センターによれば一般人口と比べて、多発性筋炎では2倍弱、皮膚筋炎では約3倍前後、悪性腫瘍を伴いやすいとされている

診断は、これらを組み合わせて行います。難病情報センターの診断基準では、多発性筋炎=皮膚症状を欠き、次の9項目のうち4項目以上を満たすもの(18歳以上で発症した場合)とされています。

■ 診断基準の項目(皮膚症状以外の9項目)
① 上肢又は下肢の近位筋の筋力低下 ② 筋肉の自発痛又は把握痛 ③ 血清中筋原性酵素(CK又はアルドラーゼ)の上昇 ④ 筋炎を示す筋電図変化 ⑤ 骨破壊を伴わない関節炎又は関節痛 ⑥ 全身性炎症所見(発熱、CRP上昇、又は赤沈亢進) ⑦ 筋炎特異的自己抗体陽性 ⑧ 筋生検で筋炎の病理所見(筋線維の変性及び細胞浸潤)

この一覧を見て、気づいてほしいことがあります。①と②は、機械を使わずに確かめられる項目です。近位筋の筋力低下と、筋肉を押したときの痛み——ベッドサイドの観察が、そのまま診断の材料になっています。

多発性筋炎の治療

多発性筋炎の治療をまとめた図解。副腎皮質ステロイド薬を第一選択とし、免疫抑制薬や免疫グロブリン大量静注療法、リハビリと嚥下への対応、合併症と悪性腫瘍への対応を示し、嚥下障害と急速に進む間質性肺炎があるときは急ぐことを伝えている

治療の考え方は「暴走している免疫を抑える」の一点です。副腎皮質ステロイド薬が第一選択で、ここは揺るぎません。

■ 薬物療法
副腎皮質ステロイド薬(第一選択)
筋肉の炎症と免疫反応を抑える、治療の基本。ここから始まる
免疫抑制薬
ステロイドだけでは効果が不十分な場合、副作用で使えない場合、減量すると再燃する場合に併用する
免疫グロブリン大量静注療法
重症例や嚥下障害が強い場合に行うことがある。即効性はあるが持続に乏しいため、ほかの薬で免疫を抑えながら使う

ここで、治療の緩急を分ける大事な記述があります。難病情報センターには、こう書かれています。

「嚥下障害、急速進行性間質性肺炎のある症例では、救命のため、強力かつ速やかに治療を開始する必要がある」

つまり——筋力低下だけならじっくり治療できるが、飲み込みと呼吸が絡んだ瞬間、話が変わるということです。急速進行性の間質性肺炎を合併する症例では、当初から高用量の副腎皮質ステロイド薬と免疫抑制薬を併用するとされています。

■ 薬以外の治療
リハビリテーション
炎症が落ち着いた段階で、筋力や日常生活動作の維持・改善を図る。★時期を守ることが決定的に大事(後述)
嚥下障害への対応
食事形態の調整と嚥下訓練を行う。誤嚥・窒息を防ぐための治療でもある
合併症の治療
間質性肺炎などがある場合は、その重症度に応じた治療を行う
悪性腫瘍の検索と治療
合併しやすいことがわかっているため、十分に検索し、見つかれば治療する

リハビリの「時期」について、もう少し説明させてください。ここは看護学生がいちばん誤解しやすいところです。

「筋力が落ちているのだから、鍛えればいい」と考えたくなります。ところが炎症が強い時期に負荷をかけると、かえって筋線維の障害を進めてしまう可能性があります。筋肉は、いま攻撃を受けている最中だからです。

だから「炎症が落ち着いてから」という条件が付いています。急性期にやるのは、関節が固まらないようにする、廃用を防ぐといった範囲です。「リハビリ=筋トレ」ではないと押さえておいてください。

最後に、この疾患の治療でいちばん現実的な難しさをお伝えします。ステロイドは、減らすと再燃しやすい。そして治療後も過半数の症例に筋力低下が残るとされています(出典:難病情報センター)。

つまり、「完全に元どおり」を目標にすると、患者さんも医療者も苦しくなります。再燃させずに、いまの力を保ち、生活を組み立て直す——そこに目標を置けるかどうかが、長い経過を支えるうえで効いてきます。

看護のポイント

多発性筋炎の看護のポイントをまとめた図解。飲み込みと呼吸を見張ること、心臓を見張ること、筋力を動作で記録すること、薬と感染を管理すること、長い経過を支えることの5点を示している
■ 看護のポイント
誤嚥と窒息を防ぐ(最優先)
嚥下にかかわる筋力の低下は、誤嚥や窒息死の原因になる(難病情報センター)。むせ、食事に時間がかかる、食後の声のかすれ、痰の増加を観察する。食事の姿勢と形態を整え、食後すぐに横にしない
呼吸を見張る
乾いた咳・動いたときの息切れ・呼吸数・SpO₂を追う。「安静時は平気だが、動くと苦しい」は間質性肺炎の初期サイン。急速に進む型があるので、変化は様子を見ずに報告する
心臓を見張る
脈は数だけでなくリズムを確認する。むくみ・体重増加・息切れもあわせて追う。★「筋力低下のせいで疲れやすいのだろう」で片づけない——心不全の始まりが同じ顔をしている
筋力低下を「動作」で記録する
「だるい」ではなく「階段が上れるか」「椅子から立てるか」「腕が上がるか」で記録する。立ち上がる場面を見るとガワーズ徴候の有無もわかる。介助に入る前の数秒が情報になる
リハビリの時期を守る
炎症が強い時期に負荷をかけない。急性期は関節拘縮と廃用の予防まで。「鍛えれば戻る」という励まし方をしない——よかれと思った声かけが、悪化につながることがある
ステロイドの副作用と自己中断を防ぐ
長期・高用量になりやすい。感染しやすくなる、血糖が上がる、骨がもろくなる、気分が変動する。そして減らすと再燃しやすいので、自己判断でやめないことを繰り返し伝える
感染を防ぐ
ステロイドと免疫抑制薬で免疫が抑えられている。手洗い・含嗽・口腔ケアを徹底する。発熱は「病気の症状」か「感染」か「薬の副作用」かの見きわめが必要なので、必ず報告する
転倒を防ぐ
近位筋の筋力低下で立ち上がりと階段が不安定になる。さらにステロイドによる骨のもろさが重なる。手すり・履き物・動線を整え、立ち上がりの様子を観察する
悪性腫瘍の検索を支える
合併しやすいことがわかっているため、検査が組まれる。「なぜこんなに検査をするのか」と不安になりやすいので、目的を説明して受診が続くよう支える
長い経過を一緒に見通す
再燃しやすく、治療後も筋力低下が残ることがある。「完全に元どおり」だけを目標にすると苦しくなる。いまできることを保ち、生活を組み立て直す方向を、本人・家族と共有する

多発性筋炎の看護でいちばん大事なのは、「見えている筋力低下」より「見えていない筋肉」を見張ることです。

腕や脚の筋力は、患者さん自身も気づきますし、記録にも残ります。でも飲み込む筋肉、呼吸する筋肉、心臓の筋肉は、本人にも見えません。そして命に関わるのは、そちらです。

食事の様子を見ること、呼吸数を数えること、脈のリズムを確かめること。どれも地味な関わりです。それでも、その積み重ねが、いちばん怖い結末を遠ざけています。

まとめ

多発性筋炎は症状の名前が多くて、最初は覚えきれないように見えます。でも、たどっていくと全部つながります。丸暗記ではなく、矢印で理解してみてください。

① 起きていることは、1つだけ
免疫が自分の筋線維を異物と認識細胞傷害性Tリンパ球が攻撃筋線維が壊死
収縮できる筋線維が「数として」減るから、力が出なくなります。
② 症状は「どこの筋肉がやられたか」で決まる
骨盤・大腿の近位筋
階段が上れない/椅子から立てない → 進むとガワーズ徴候
肩・上腕の近位筋
腕が上がらない(髪をとかす・洗濯物を干す)
のどの筋肉
嚥下障害 → 誤嚥・窒息
呼吸の筋肉
呼吸障害
心筋
心筋炎 → 心不全・不整脈
③ 近位筋からくる、という型を覚える
左右対称に、体に近い筋肉から、ゆっくり進む。
だから「箸は持てるのに、階段が上れない」という、ちぐはぐな訴えになります。
④ 心筋炎から、2つに分かれる
の問題:心筋の収縮力低下心拍出量が減少心不全
リズムの問題:刺激伝導系が障害電気の伝導が乱れる不整脈
⑤ ただし、いのちを決めるのは肺
間質性肺炎だけは筋肉ではありません。免疫の異常が肺の間質に向かい、
間質に炎症線維化して厚くなる酸素が渡れない
難病情報センターは「生命予後を左右する」と明記しています。

覚えるコツは、「筋肉があるところは、どこでも標的になる」と考えることです。手足も、のども、呼吸も、心臓も、動かしているのは筋肉。だから同じ攻撃が、同じ形で、別の場所に起きます。症状を1つずつ覚えるのではなく、場所を差し替えるだけだと考えてください。

そして、この疾患のいちばん大事な逆説を、もう一度。筋肉の病気なのに、いのちを左右するのは肺です。腕や脚の筋力ばかり見ていると、そこを見落とします。

患者さんが何気なく言った「最近、食事でむせるんです」「動くと少し息が切れて」という一言。それを、いま体の中で起きていることと結びつけられるか——そこがこの疾患を学ぶ価値だと思います。

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