看護学生のみなさんにお知らせです!

このたび、「らくらく関連図」アプリに肺血栓塞栓症の関連図を追加しました。

この疾患には、ひとつ大きな特徴があります。

肺の病気なのに、始まりは足にあります。

症状は突然の呼吸困難と胸痛。どう見ても胸の病気です。ところが血栓ができたのは、下肢や骨盤の静脈。それが血流に乗って肺まで飛んできた——それが肺血栓塞栓症です。

だから予防も、観察も、足を見ます。ここが、ほかの呼吸器疾患とまったく違うところです。

そしてもうひとつ。詰まっているのは血管であって、気道ではありません。空気は入ってくるのに、血が来ない。この一点を押さえると、症状も検査も一気につながります。

この記事では、関連図の流れにそって原因・症状・合併症を解説していきます。「足で始まって、肺で症状が出る」という視点で読んでみてください。

肺血栓塞栓症とはどんな病気?

肺血栓塞栓症は、血栓が肺動脈に詰まり、肺への血流が障害される疾患です。多くは、下肢や骨盤内の深部静脈にできた血栓が肺まで流れて発症します。

まず、名前の関係を整理しておきましょう。ここを押さえると、記事全体が読みやすくなります。

■ 3つの名前の関係(出典:日本循環器学会ほか『2025年改訂版 肺血栓塞栓症・深部静脈血栓症および肺高血圧症に関するガイドライン』)
深部静脈血栓症(DVT)
下肢や骨盤内の静脈で血栓ができた状態。ここが出発点
肺血栓塞栓症(PTE)
その血栓が遊離して血流に乗り、肺動脈を閉塞した状態。この記事の主役
静脈血栓塞栓症(VTE)
この2つをひとくくりにした呼び方。★同じ病気の前半と後半だから、まとめて呼ぶ★

DVTとPTEは、別の病気ではありません。「足で起きたこと」と「その結果、肺で起きたこと」です。

だから予防の話をするとき、看護師は肺ではなく足を見ます。飛んでからでは遅いからです。

もうひとつ、押さえておきたい区別があります。

■ 急性と慢性
急性肺血栓塞栓症
遊離した血栓が急激に肺動脈を閉塞する。突然の呼吸困難や胸痛で発症し、重症例ではショックや心停止に至る
慢性血栓塞栓症
器質化した血栓が肺動脈を慢性的に閉塞する。★合併症③の慢性血栓塞栓性肺高血圧症につながる★

数字も見ておきましょう。

■ 数字で見る肺血栓塞栓症(出典:日本循環器学会 診療ガイドライン2025年改訂版)
位置づけ
欧米では、虚血性心疾患・脳血管障害に次ぐ「3大致死的血管疾患」のひとつと認識されている
日本での発症
1996年の疫学調査で人口100万人あたり28人と推計。過去の研究をまとめた2015年の研究では、発症数は増加している
好発
年齢とともに発症リスクが高くなり、高齢者に多い。男女ともに発症する
★年齢を問わない場面★
手術後や長期臥床中の患者では、年齢を問わず注意が必要

最後の1行が、実習でいちばん効きます。この疾患は「高齢者の病気」ではありません。術後の患者さんが、初めて起き上がった瞬間に起こることがあります。

正常な肺の血の流れと、詰まったときの違い

関連図に入る前に、肺で何が行われているかを確認しておきます。ここが、この疾患のすべての土台になります。

肺の仕事はガス交換——血液に酸素を渡し、二酸化炭素を受け取ることです。そのために2つのものが、同じ場所へ届く必要があります。

■ ガス交換には、2つがそろう必要がある
① 空気(換気)
気道を通って肺胞まで届く
② 血液(血流)
肺動脈を通って肺胞のまわりの毛細血管まで届く
そろって初めて
肺胞の空気から、毛細血管の血液へ酸素が移る

ここで、呼吸器の疾患を3つ並べてみます。どこが壊れているかが、それぞれ違います。

■ どこで止まっているのか(3つを並べると見える)
肺炎・喘息など
空気が入らない。気道や肺胞そのものが壊れている
間質性肺炎
空気も血も来るが、あいだの壁が厚くなって酸素が渡れない
★肺血栓塞栓症★
空気は入る。でも血が来ない。肺胞まで空気は届くのに、そこに血液が流れてこない

肺血栓塞栓症で詰まっているのは、気道ではなく血管です。

関連図では、この状態がはっきり書かれています。「肺胞まで空気は届くが、血液が流れにくくなる」。そして次の箱が「換気血流比不均衡」です。

この言葉、国試でもよく出てきますが、意味はシンプルです。

■ 換気血流比不均衡とは
換気
肺胞に届く空気の量
血流
肺胞のまわりに届く血液の量
比が崩れる
この2つのつり合いが取れなくなること。肺血栓塞栓症では換気はあるのに血流がないという形で崩れる

肺動脈が血栓で閉塞→肺血流量低下→肺胞まで空気は届くが血液が流れにくくなる→換気血流比不均衡→血液からの酸素取り込みが低下→低酸素血症

ここで、この疾患を診るうえで大事な感覚をお伝えします。

患者さんは苦しそうに呼吸しています。呼吸数も増えています。それでも酸素が上がりません。なぜなら——いくら空気を入れても、受け取る血液が来ていないからです。

「頑張って呼吸しているのに、酸素が改善しない」——これが、この疾患の顔つきです。

肺血栓塞栓症の原因の関連図

らくらく関連図アプリより一部抜粋

関連図を見ると、入口がとてもたくさん描かれています。でも、整理のしかたは決まっています。

日本循環器学会のガイドラインには、こう書かれています。

「血栓形成の3大要因は、1856年に Rudolf C. Virchow が提唱した①血流の停滞、②血管内皮傷害、③血液凝固能亢進があげられる」

■ ウィルヒョウの3徴(血栓ができる3つの条件)
① 血流の停滞
血液が流れずによどむ。
例:長期臥床・長時間の同一姿勢・全身麻酔・下肢ギプス固定・下肢静脈瘤・肥満・妊娠・心不全
② 血管内皮傷害
血管の内側の面が傷つく。
例:外傷・骨折・手術・カテーテル検査/治療・血管炎・喫煙・悪性腫瘍の薬物療法
③ 血液凝固能亢進
血液が固まりやすくなる。
例:脱水・悪性腫瘍・熱傷・感染症・経口避妊薬/エストロゲン製剤・プロテインC欠乏症・アンチトロンビン欠乏症

関連図の入口がいくつあっても、行き先はこの3つのどれかです。1つずつ暗記するのではなく、「これは3つのうちどれか」と振り分けてください。それだけで、覚える量が激減します。

そして、3つのどれを通っても合流する先は同じです。

下肢の深部静脈に血栓が形成→深部静脈血栓症→血栓の一部が剥がれる→静脈血流に乗って移動→肺動脈を閉塞→肺血栓塞栓症

では、この記事で取り上げる3つの入口を見ていきます。この3つは、ウィルヒョウの3徴のうち2つにまたがっています。

原因① 深部静脈血栓症

これは「原因」というより「本体」です。肺血栓塞栓症の血栓は、そのほとんどが深部静脈血栓症でできたものだからです。

関連図の流れを追ってみましょう。飛んでいく道すじが、そのまま描かれています。

■ 足の血栓が、肺にたどりつくまで
① 剥がれる
下肢深部静脈内の血栓の一部が、血管壁から剥離する
② 乗る
剥離した血栓が静脈血流に乗って移動する
③ 太い静脈へ
下大静脈へ流入する
④ 心臓を通る
右心房へ流入 → 右心室へ流入 → 肺動脈へ流入
⑤ 詰まる
肺動脈またはその分枝に血栓が詰まる → 肺血流が遮断

④に注目してください。血栓は、心臓の右側を素通りしています。

これには理由があります。足から戻ってきた血液は、右心房 → 右心室 → 肺動脈 → 肺、という順に流れます。だから足でできた血栓は、最初にたどりつく細い血管が肺動脈なのです。

「足の血栓は、必ず肺へ行く」——解剖を思い出せば、当たり前のことです。

そして、血栓ができる場所にも特徴があります。ガイドラインには「末梢型DVTの多くはヒラメ筋静脈から生じる」と書かれています。

ヒラメ筋は、ふくらはぎの奥にある筋肉です。歩くとこの筋肉が縮んで、静脈を押し上げてくれます。これが下腿の筋ポンプ作用——ふくらはぎが「第二の心臓」と呼ばれる理由です。

動かなければ、このポンプは止まります。そこから原因②につながります。

原因② 長時間の同一姿勢

ウィルヒョウの3徴でいうと、①血流の停滞にあたります。

関連図の流れはこうです。

■ 動かないと、なぜ血栓ができるのか
① 動く機会が減る
長時間の同一姿勢(術後・フライト・運転など)で、下肢を動かす機会が減少する
② 筋肉が縮まない
下肢筋の収縮が減少する
③ ポンプが止まる
下肢筋のポンプ作用が低下する。★ふくらはぎが静脈を押し上げてくれなくなる★
④ 流れが遅くなる
下肢静脈の血流が低下する
⑤ 固まりやすくなる
血液が凝固しやすくなる
⑥ 血栓ができる
下肢の深部静脈に血栓が形成 → 深部静脈血栓症

ここで、この原因の怖さをお伝えします。

「動かない」は、病気ではありません。治療のための安静も、長距離の移動も、日常の一場面です。それでも、条件がそろえば血栓はできます。

ガイドラインには、日本ならではの記述もあります。

■ 災害時に問題になる(出典:日本循環器学会 診療ガイドライン2025年改訂版)
「わが国で問題になるのは地震災害に伴うVTEである。2004年の新潟県中越地震、2011年の東日本大震災の際に被災者からPTE、DVT症例が報告され、特に車中泊が問題となった」

車の中で夜を明かす。それだけで、血栓はできます。「エコノミークラス症候群」という言葉で知られているのは、これです。

だから予防の中心は、いつも同じです。動かすこと。ガイドラインでも「早期離床および積極的な運動」が挙げられています。看護のセクションで、くわしく見ていきます。

原因③ 喫煙

3つめの喫煙は、ウィルヒョウの3徴でいうと②血管内皮傷害にあたります。

関連図では、こう描かれています。

■ 喫煙から血栓ができるまで
① さらされる
タバコ煙に含まれる有害物質への曝露
② 活性酸素が増える
活性酸素の産生が増加し、抗酸化作用が低下する
③ たまる
活性酸素が蓄積し、酸化ストレスが増加する
④ 内側が傷つく
血管内皮が障害される。★ここが「血管内皮傷害」★
⑤ 固まる力が勝つ
抗血栓作用が低下し、血小板が活性化する
⑥ 凝固が進む
血液凝固系が活性化 → 血液凝固能亢進 → 血液が凝固しやすくなる
⑦ 血栓ができる
下肢の深部静脈に血栓が形成

ここで気づいてほしいことがあります。喫煙は、3徴のうち2つに効いています。

関連図をたどると、血管内皮を傷つける(②)だけでなく、そこから血液凝固系を活性化させる(③)ところまでつながっています。1本の入口で、2つの条件を満たしてしまうのです。

血管の内側は、ただの「管の内側」ではありません。

血管内皮細胞は、血が固まらないようにする物質を出しています。つるつるしているだけでなく、積極的に「固まるな」と働きかけているのです。

だから内皮が傷つくと、「固まらせない力」が失われます。関連図の「抗血栓作用が低下」という箱が、まさにこれです。

看護としては、禁煙が予防そのものになります。とくに手術を控えた患者さんでは、術後の安静(=血流停滞)と喫煙(=内皮傷害)が重なるので、危険因子が2つそろってしまいます。

肺血栓塞栓症の症状の関連図

らくらく関連図アプリより一部抜粋

症状はたくさんありますが、関連図を見ると、出発点はどれも同じ1行です。

「肺動脈またはその分枝が血栓で閉塞」——ここから、すべてが枝分かれします。

そして、枝は2本しかありません。

■ 肺血栓塞栓症の症状は、2つの枝に分かれる
枝A:血が流れない(ガス交換の問題)
肺血流量低下 → 肺胞まで空気は届くが血液が流れにくくなる → 換気血流比不均衡 → 低酸素血症
→ 呼吸困難・息切れ・頻呼吸・過呼吸・頻脈・冷汗・Ⅰ型呼吸不全・呼吸性アルカローシス
枝B:肺の組織が傷む(組織の問題)
肺組織虚血 → 肺組織への酸素供給低下 → 肺組織が障害
→ 胸痛・咳嗽・喀血・血痰・肺梗塞

この2本を分けて覚えると、症状の名前を1つずつ暗記する必要がなくなります。

ここで、実際にどのくらいの頻度で出るのかを見ておきましょう。ガイドラインには、複数の研究をまとめた表が載っています。

症状 おおよその頻度
呼吸困難 50〜84%
胸痛 32〜48%
頻脈 17〜43%
頻呼吸 16〜25%
失神 5.5〜26%
咳嗽 10〜23%
冷汗 8.5〜22%
血痰 3.4〜9.4%
出典:日本循環器学会ほか『2025年改訂版 肺血栓塞栓症・深部静脈血栓症および肺高血圧症に関するガイドライン』表6「症候性急性PTEの症状・所見」より、複数研究の範囲をまとめたもの

この表から、大事なことが2つ読み取れます。

ひとつめ。呼吸困難と胸痛が、圧倒的に多い。だからこの2つは、必ず押さえます。

ふたつめ。血痰(喀血)は、そう多くありません。3〜9%程度です。でも、出たときの意味は重い——それは症状③で見ていきます。

そして、いちばん怖いのは「どれも肺血栓塞栓症に特有ではない」ことです。

呼吸困難も胸痛も、ほかの疾患でいくらでも起こります。だから「この症状があれば肺血栓塞栓症」という決め手はありません。代わりに——「この患者さんは、血栓ができる条件がそろっていたか」から疑います。検査のセクションで、そのしくみを見ます。

症状① 呼吸困難

いちばん多い症状です。ガイドラインの表では、研究によって50〜84%と報告されています。

流れは、正常のセクションで見たとおりです。

肺動脈が血栓で閉塞→肺血流量低下→肺胞まで空気は届くが血液が流れにくくなる→換気血流比不均衡→血液からの酸素取り込みが低下→低酸素血症→呼吸中枢刺激→呼吸困難

ここから、同じ枝でいくつもの症状が同時に出ます。

■ 低酸素血症から、いっぺんに出てくるもの
呼吸中枢が刺激される
呼吸困難/呼吸数が増加 → 息切れ・頻呼吸/呼吸の深さと回数が増加 → 過呼吸
交感神経が活性化する
心拍数増加 → 頻脈/皮膚血管収縮 → 皮膚血流量低下 → 汗腺を刺激 → 発汗増加 → 冷汗
★呼吸が増えすぎると★
動脈血二酸化炭素分圧が低下または正常に。
ここからⅠ型呼吸不全と呼吸性アルカローシスという、2つの重要な所見が出る

最後の項目が、国試でも実習でも問われるところです。少していねいに説明します。

■ なぜ「Ⅰ型」呼吸不全なのか
Ⅰ型呼吸不全
酸素が低いのに、二酸化炭素は上がっていない(低いか正常)状態
Ⅱ型呼吸不全
酸素が低くて、二酸化炭素も上がっている状態
肺血栓塞栓症では
換気(=空気の出入り)は保たれている。むしろ苦しくて呼吸数が増えているので、二酸化炭素はどんどん吐き出されます。だからⅠ型になる

「空気は入っている」という性質が、そのまま検査所見に出てきます。

そして、二酸化炭素を吐き出しすぎると血液がアルカリ性に傾きます。関連図では「血液中の水素イオン濃度低下 → 血液のpHが上昇 → 呼吸性アルカローシス」と描かれています。

実習で観察するときは、「苦しそうなのに、酸素が上がらない」という組み合わせを意識してください。SpO₂・呼吸数・脈拍・冷汗は、どれも同じ1本の枝から出ています。

症状② 胸痛

呼吸困難に次いで多い症状で、32〜48%と報告されています。

ここからは枝B(肺の組織が傷む)の話になります。流れが、枝Aとまったく違うことに注目してください。

■ 胸痛が出るまで
① 血が来ない
肺組織虚血。血流が途絶えた先の肺組織に、血液が届かなくなる
② 酸素が足りない
肺組織への酸素供給が低下する
③ 組織が傷む
肺組織が障害される
④ 炎症が起こる
炎症性物質が放出され、肺組織に炎症が起こる
⑤ 胸膜が刺激される
胸膜が刺激される
⑥ 痛みになる
痛覚受容器が刺激 → 胸痛

ここで、とても大事な事実があります。

肺そのものには、痛みを感じる神経がありません。

だから肺の組織が傷んでも、それだけでは痛みません。痛みが出るのは、炎症が広がって「胸膜」に届いたときです。胸膜には痛覚があります。

この性質から、肺血栓塞栓症の胸痛には特徴が出ます。

■ 胸膜が痛むと、どういう痛み方になるか
息を吸うと痛い
胸膜は呼吸のたびに動きます。だから深く吸ったときに強くなる痛みになる(胸膜痛)
場所がはっきりしている
内臓の痛みと違い、「ここが痛い」と指させることが多い
★ガイドラインでも★
大規模研究では、胸痛を細かく分類したうえで「胸膜痛」が最も多いと報告されている

だから実習では、「どう痛むか」まで聞いてください。「息を吸うと痛みますか」は、そのまま病態の確認になります。

そして——この胸痛は、肺の組織が傷みはじめているサインです。その先にあるのが、合併症①の肺梗塞です。

症状③ 喀血

頻度は3.4〜9.4%と、多くはありません。でも、この症状には意味があります。

流れを見てみましょう。胸痛と同じ枝の、もう少し先です。

■ 血が出てくるまで
①〜③ 組織が傷む
肺組織虚血 → 酸素供給低下 → 肺組織が障害(胸痛と同じ)
④ 血管の壁が壊れる
毛細血管壁が障害される。★ここから道が分かれる★
⑤ 血が漏れ出す
肺胞内へ血液が漏出する
⑥ 気道へ入る
血液が気道内へ流入する
⑦ 出てくる
咳嗽により血液が排出 → 喀血/血液と痰が混合 → 血痰

喀血は「血管の壁が壊れた」というサインです。

胸痛のときは、組織が傷んで炎症が起きた段階でした。喀血ではもう一歩進んで、毛細血管の壁そのものが壊れています。

だから、喀血が出ているということは、肺の組織のダメージがそれだけ進んでいると読みます。

■ 喀血と血痰の違い
喀血
咳とともに血液が排出される。血液そのものが出てくる
血痰
血液と痰が混ざったものが排出される。痰に血が混じる
どちらも
出どころは同じ。肺胞に漏れ出した血液が、気道を通って出てきたもの

ここで、実習で気をつけたい点をひとつ。「血を吐いた」と聞いたとき、それが本当に喀血かを確かめてください。

■ 喀血と吐血は、出どころが違う
喀血(呼吸器から)
咳とともに出る。鮮やかな赤色で、泡が混じることがある
吐血(消化管から)
嘔吐とともに出る。暗い赤〜黒っぽく、食べ物が混じることがある

「咳と一緒に出たのか、吐いたときに出たのか」——これを確認するだけで、報告の質が変わります。

肺血栓塞栓症の合併症の関連図

らくらく関連図アプリより一部抜粋

合併症は肺梗塞・右心不全・慢性血栓塞栓性肺高血圧症の3つを取り上げます。

読むときの視点を先にお伝えします。3つとも、出発点は同じ「肺動脈が血栓で閉塞」。そこから、どこに負担がかかるかで結果が変わります。

■ 3つの合併症の位置づけ
肺梗塞
血栓の「先」で起こる。血が来なくなった肺の組織が壊死する
右心不全
血栓の「手前」で起こる。詰まった血管の手前で圧力が上がり、右心室が疲れる
慢性血栓塞栓性肺高血圧症
時間が経ってから起こる。血栓が溶けずに残り、血管の壁に変わってしまう

「先」「手前」「あと」。この3つで整理すると、混同しなくなります。

合併症① 肺梗塞

症状②③と同じ枝の、行き着く先です。

肺組織虚血→肺組織への酸素供給低下→肺組織が障害→肺組織が壊死→肺梗塞

「梗塞」は、血流が途絶えて組織が死ぬことです。心筋梗塞・脳梗塞と、起きていることは同じです。

ここで、ひとつ知っておくと理解が深まることがあります。

■ 肺は、血管が2系統ある
肺動脈
ガス交換のための血液を運ぶ。心臓から肺へ、酸素を受け取りに行く血液
気管支動脈
肺そのものを養うための血液を運ぶ。大動脈から分かれてくる
だから
肺動脈が詰まっても、気管支動脈からの血流が残っていれば、組織はすぐには壊死しない

これが、肺梗塞が「必ず起こる」わけではない理由です。

心臓や脳では、血管が1本詰まればその先は壊死します。でも肺にはもう1系統の血流があるので、持ちこたえることがあります。

逆に言えば——肺梗塞が起きているということは、その予備の血流でも支えきれなかったということです。詰まった血管が太いか、もともと心臓や肺の機能が落ちていると、起こりやすくなります。

実習では、胸痛と喀血がその手前のサインになります。どちらも、同じ枝の途中に出てくる症状だからです。

合併症② 右心不全

今度は血栓の「手前」で起こることです。

関連図の流れを追ってみましょう。

■ 右心不全になるまで
① 通り道が狭くなる
肺動脈またはその分枝が血栓で閉塞 → 肺血管抵抗が上昇
② 心臓に負担がかかる
右心室への負荷が増加する
③ 送り出せなくなる
右心室から肺動脈への血液駆出が低下する
④ 中にたまる
右心室内に血液が残留 → 右心室拡張
⑤ 力が落ちる
右心室の収縮機能が低下 → 右心拍出量低下
⑥ 右心不全
右心不全

①がポイントです。「肺血管抵抗」とは、肺の血管の通りにくさのこと。血栓で通り道が塞がれれば、当然、通りにくくなります。

そして、その通りにくい血管へ血液を押し込んでいるのが右心室です。

右心室は、もともと力の弱い部屋です。

左心室は全身へ血液を送るので、壁が厚く強くできています。でも右心室は、すぐ隣の肺へ送るだけなので、壁が薄い。急に抵抗が上がると、ついていけません。

だから急性の肺血栓塞栓症では、右心室が急速に疲れます。ここが重症度を決める分かれ目になります。

そして、右心室が送り出せなくなると、その先——左心系まで足りなくなります。

■ 右心室が送れないと、全身に何が起こるか
左心系へ届かない
左心房への流入血液量減少 → 左心室への流入血液量減少 → 心拍出量低下
脳へ
脳血流量低下 → 脳への酸素供給低下 → 一過性の意識消失(失神)
全身へ
全身への血液供給低下 → 組織への酸素・栄養供給低下 → 閉塞性ショック
★心臓自身へ★
冠動脈への血流が著明に低下 → 心筋への酸素供給が著明に低下 → 心筋機能が著明に低下 → 循環維持困難 → 心停止

肺で詰まったはずなのに、最後は心臓が止まります。

この流れが、肺血栓塞栓症が「致死的」と呼ばれる理由です。ガイドラインが「欧米では虚血性心疾患、脳血管障害に次ぐ3大致死的血管疾患の1つ」としているのは、ここまでが一続きだからです。

失神は、その途中で出るサインです。頻度は5.5〜26%と多くありませんが、出たときは「心拍出量が落ちている」という意味になります。見逃せません。

合併症③ 慢性血栓塞栓性肺高血圧症

3つめは、時間が経ってから起こる合併症です。名前が長いので、CTEPHと略されます。

これまでの2つと、時間の流れがまったく違います。

■ 血栓が「血管の一部」になってしまうまで
① 残る
肺動脈またはその分枝に血栓が残存する
② 溶けない
血栓が十分に溶解されない
③ 細胞が入り込む
血栓内に炎症細胞が侵入し、続いて線維芽細胞が侵入する
④ 線維が増える
膠原線維が増生する
⑤ 置き換わる
血栓が線維性組織に置換 → 血栓が器質化する
⑥ 血管が狭くなる
肺動脈内腔が狭窄・閉塞する
⑦ 慢性化する
慢性的に肺血流量低下 → 慢性的に肺血管抵抗上昇 → 慢性的に肺動脈圧上昇 → 慢性血栓塞栓性肺高血圧症

③〜⑤が、この合併症の本質です。

血栓が「詰まりもの」から「血管の壁」に変わってしまいます。

本来、血栓は体が溶かして片づけるものです。ところが溶けきらずに残ると、体はそれを「修復すべき組織」だと勘違いします。炎症細胞と線維芽細胞が入り込み、コラーゲンを敷きつめて——硬い線維の組織に作り変えてしまうのです。

こうなると、もう薬では溶けません。急性期のように血栓溶解療法をしても、線維になったものは溶けないからです。

ガイドラインには、再発予防と経過観察の重要性が書かれています。「CTEPH発症リスクが高い症例」では、3〜6ヵ月後の評価が挙げられています。

急性期を乗り越えたら終わり、ではありません。

看護として大事なのは、「息切れが続く」「前より動けない」という訴えを拾うことです。急性期を乗り越えた患者さんが、数ヵ月後にこう言ったとき——それはCTEPHのサインかもしれません。

肺血栓塞栓症の検査

この疾患の検査には、ほかの疾患にはない考え方があります。

症状のセクションで見たとおり、呼吸困難も胸痛も、この疾患に特有ではありません。だから「症状から診断する」ことができません。

代わりに使うのが、検査前臨床的確率という考え方です。

■ ★検査の前に「どれくらい疑わしいか」を決める★(出典:日本循環器学会 診療ガイドライン2025年改訂版・推奨表4)
まず確率を出す
「急性PTEが疑われた患者に対し、検査前臨床的確率を評価する」(推奨クラスI)
★確率が低ければ、血液検査だけで否定できる★
「検査前臨床的確率が低い、あるいは中等度の患者において、Dダイマーが陰性であれば画像診断を行うことなくPTEを否定する」(推奨クラスI・エビデンスレベルA)
確率が高ければ、画像へ
「検査前臨床的確率が高い場合は画像による確定診断を行う」

つまり——「疑わしさ」と「血液検査」の組み合わせで、造影CTを撮る前にふるい分けています。

この確率を出すのに使われるのがWellsスコアなどの評価法です。危険因子・症状・所見に点数をつけて、合計で判断します。

ここで、看護学生さんに気づいてほしいことがあります。

このスコアに入っているのは、ベッドサイドで集められる情報です。手術歴、臥床期間、下肢の腫れ、脈拍——機械がなくても集まる情報が、そのまま診断の入口になっているのです。

■ ①血液検査(ふるい分ける)
Dダイマー
血栓ができて、それが溶かされるときに出る物質。上昇していれば血栓形成の可能性を評価できる
★陰性なら否定できるのが、この検査のいちばんの価値★
動脈血液ガス分析
低酸素血症など呼吸状態を評価する。症状①で見たⅠ型呼吸不全・呼吸性アルカローシスが確認できる
■ ②画像で確定する
造影コンピュータ断層撮影(造影CT)
肺動脈内の血栓や閉塞部位を確認する。★確定診断の中心★
肺血流シンチグラフィ
肺血流が低下・欠損している部分を確認する
胸部X線検査
ほかの呼吸器疾患との鑑別などに使う
■ ③心臓への負担を見る(重症度が決まる)
心電図
頻脈や右心負荷の有無を確認する
心臓超音波検査(心エコー)
右心室の拡大や右心負荷を評価する。★合併症②で見た「右心室が疲れているか」を、そのまま見る検査★
■ ★④足を見る(ここを忘れない)★
下肢静脈超音波検査
深部静脈血栓症の有無を確認する
なぜ足を見るのか
肺の症状で来た患者さんの、原因は足にあるから。そしてまだ足に血栓が残っていれば、また飛ぶ

肺の病気を診断するのに、足のエコーを撮る。これが、この疾患の検査のいちばんの特徴です。「肺の病気なのに、始まりは足」という記事の柱が、検査にもそのまま出ています。

肺血栓塞栓症の治療

治療は4つの方向に分かれます。「支える」「増やさない」「取り除く」「血圧を保つ」です。

■ ①支える
酸素療法
低酸素血症を改善する。★ただし——血が来ていない場所には、いくら酸素を吸わせても届きません★
だから酸素だけでは根本的に良くならず、詰まりを何とかする治療が必要になる
■ ②これ以上増やさない(治療の基本)
抗凝固療法
血栓の増大や、新しい血栓の形成を防ぐ。★いまある血栓を溶かす薬ではないことに注意★
ヘパリン
急性期に抗凝固作用を得るために使用する
直接作用型経口抗凝固薬(DOAC)
血液を固まりにくくして再発を予防する。飲み薬で続けられる
■ ③取り除く(重症のとき)
血栓溶解療法
重症例で血栓を溶解し、肺血流を改善する
カテーテル治療
カテーテルを用いて血栓を除去・破砕する
外科的血栓摘除術
重症例で、手術により肺動脈内の血栓を除去する
■ ④循環を保つ
循環管理
血圧低下やショックに対して、輸液や昇圧薬などを使用する。合併症②で見た閉塞性ショックへの対応

ここで、②の抗凝固療法について、押さえておきたいことがあります。

抗凝固薬は「溶かす薬」ではなく「これ以上固めない薬」です。

患者さんに「血栓を溶かす薬ですよ」と説明してしまいがちですが、正確には違います。血栓を溶かすのは、体に元々ある働き(線溶)です。抗凝固薬はその働きが追いつくまでのあいだ、血栓が大きくならないように押さえているのです。

だから抗凝固療法は、しばらく続きます。そして——やめれば、また固まりやすい状態に戻ります。

そしてもうひとつ。この疾患の治療でいちばん大事なのは、実は「起こさないこと」です。

ガイドラインでも「早期離床および積極的な運動」が挙げられ、弾性ストッキングや間欠的空気圧迫法が予防法として記載されています。これらは全部、看護が担う部分です。看護のセクションで見ていきます。

看護のポイント

■ 看護のポイント
★動かす(最優先の予防)★
ガイドラインは「早期離床および積極的な運動」を挙げている。動かないことが、そのまま血流停滞(ウィルヒョウの3徴の1つ)になる。
足関節の底背屈運動、離床の時期、歩行の再開を、医師の指示に沿って進める。「安静度が上がったら、すぐ足を動かす」
弾性ストッキングと間欠的空気圧迫法
どちらもガイドラインに予防法として記載されている。★正しく履けているかを毎日見る★——しわ・ずり落ち・食い込みがあると効果が落ち、かえって圧迫になる。サイズが合っているかも確認する
★足を見る(毎日)★
下肢の腫れ・左右差・熱感・発赤・ふくらはぎの痛み。肺の症状が出る前に、足に出ていることがある。
「片方だけ太い」は、それだけで報告する理由になる
★離床の「その瞬間」に立ち会う覚悟をもつ★
血栓は、動き出したときに飛ぶ。術後や長期臥床のあと、初めて起き上がる場面・トイレへ立つ場面がいちばん危ない。
そばで、呼吸と脈と顔色を見る
急変のサインを拾う
突然の呼吸困難・胸痛・頻呼吸・頻脈・冷汗・SpO₂低下。★失神は「心拍出量が落ちている」サイン★
「酸素を上げても、SpO₂が改善しない」は、この疾患を強く疑う所見
胸痛は「どう痛むか」まで聞く
息を吸うと強くなる痛み(胸膜痛)が特徴。肺そのものには痛覚がなく、炎症が胸膜に届いて初めて痛むので、痛みが出た=組織が傷みはじめていると読む
喀血と吐血を区別する
咳とともに出たのか、吐いたときに出たのかを確認する。喀血は鮮やかな赤で泡が混じることがある。喀血は「毛細血管の壁が壊れた」サインで、組織のダメージが進んでいる
水分と脱水に気を配る
脱水は、血液凝固能亢進(3徴の1つ)にあたる。とくに高齢者・術後・発熱時は水分が不足しやすい。飲水量と尿量をあわせて見る
抗凝固薬を続けてもらう
「これ以上固めない薬」であって「溶かす薬」ではない。やめれば、また固まりやすい状態に戻る。
出血のサイン(歯ぐきの出血・あざ・血尿・黒い便)も観察し、自己判断でやめないことを伝える
数ヵ月後の息切れを拾う
急性期を乗り越えたら終わり、ではない。「息切れが続く」「前より動けない」は慢性血栓塞栓性肺高血圧症のサインかもしれない。受診を続けてもらう

肺血栓塞栓症の看護でいちばん大事なのは、「肺を見る前に、足を見ること」です。

この疾患は、起きてしまってからでは、できることが限られます。血栓はもう肺に飛んでいて、あとは溶けるのを待つか、取り除くしかありません。

でも飛ぶ前なら、防げます。足を動かすこと、ストッキングを正しく履いてもらうこと、水分をとってもらうこと、毎日ふくらはぎを見ること。どれも地味で、どれも看護師にしかできません。

そして——飛ぶのは、たいてい「動き出した瞬間」です。

長く寝ていた患者さんが、初めて起き上がる。その場面に立ち会えるのは、そばにいる人だけです。

まとめ

肺血栓塞栓症は名前が長くて、症状も多くて、最初はつかみどころがないように見えます。でも、たどっていくと全部つながります。丸暗記ではなく、矢印で理解してみてください。

① 肺の病気なのに、始まりは足にある
足の静脈で血栓ができる→剥がれる→下大静脈→右心房 → 右心室→肺動脈で詰まる
足から戻った血液が最初にたどりつく細い血管が、肺動脈です。だから足の血栓は肺へ行きます。
深部静脈血栓症(DVT)と肺血栓塞栓症(PTE)は、あわせて静脈血栓塞栓症(VTE)と呼ばれます。
② 詰まっているのは血管。気道ではない
空気は入る。でも血が来ない。だから換気血流比不均衡になります。
★呼吸は保たれているので二酸化炭素は上がらない → Ⅰ型呼吸不全/吐き出しすぎて 呼吸性アルカローシス★
「苦しそうなのに、酸素が上がらない」——これがこの疾患の顔つきです。
③ 血栓ができる条件は、3つしかない(ウィルヒョウの3徴)
① 血流の停滞
長時間の同一姿勢・長期臥床・全身麻酔・下肢ギプス固定
② 血管内皮傷害
喫煙・外傷・骨折・手術・カテーテル
③ 血液凝固能亢進
脱水・悪性腫瘍・熱傷・経口避妊薬

入口がいくつあっても、この3つのどれかに振り分けられます。

④ 症状は2つの枝しかない
枝A:血が流れない
低酸素血症 → 呼吸困難(50〜84%)・頻呼吸・頻脈・冷汗
枝B:肺の組織が傷む
肺組織虚血 → 胸痛(32〜48%)・喀血(3〜9%)

★肺そのものには痛覚がありません。炎症が胸膜に届いて初めて痛む → 息を吸うと痛い★

⑤ 合併症は「先」「手前」「あと」で整理する
肺梗塞(血栓の先)
血が来ない肺組織が壊死。★ただし肺には気管支動脈という予備の血流があるので、必ず起こるわけではない★
右心不全(血栓の手前)
肺血管抵抗が上昇 → 右心室に負担 → 心拍出量低下。壁の薄い右心室は、急な抵抗についていけない
慢性血栓塞栓性肺高血圧症(あと)
溶けなかった血栓が線維に置き換わり、血管の壁になる。もう薬では溶けない

覚えるコツは、「足で始まって、肺で症状が出る」という一文です。

そして看護としていちばん大事なのは、肺を見る前に、足を見ること。

飛んでしまってからでは、できることが限られます。でも飛ぶ前なら、足を動かすだけで防げます。ストッキングのしわを直すこと、水分をすすめること、ふくらはぎの左右差を見ること——どれも地味ですが、これが予防のすべてです。

患者さんが何気なく言った「なんだか片方の足がだるくて」「立ち上がったら急に息が苦しくなって」という一言。それを、いま体の中で起きていることと結びつけられるか——そこが、この疾患を学ぶ価値だと思います。

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